氷菓と煙草
ガラリ、と隣のベランダの窓の開く音がした。
横を向くと今日も今日とて隣のベランダから灰色の煙が流れてくる。
灰色の煙をこちらに流してきた張本人は数秒遠い目でボーッとしながら煙草を吹かしたあと私のほうへ顔を向ける。
「あぁ、今日も居んのね。お嬢ちゃん」
今しがた気付いたような声色と表情でそんな言葉を発する男。
だが、私はそれを見ながら内心思う。
この男は私がここにいるのを最初から“知っていた”のではないかと。
知りながら挨拶と同じようにその言葉を発しているのではないかと。
あり得る。大いにあり得る。
いかにもこの男がやりそうなことである。