息絶えたカナリアの涙声
そして、傘を片手に家を出た。
バイト先で考えることは、あのカナリアのことだった。
雨が降るのなら今日はくることはないだろう。
それに、構ってやらなかったからどっかへ行っただろう。
男の中でカナリアは大きな存在になっていたことが分かる。
バイトを終えた男が帰る時には、まだ雨が降っていなかった。
雨に降られない今の内に家へと帰ろうと男の足はスピードを上げていく。
家に着いた男は傘を乱暴に傘立ての中へ入れた。
はぁ、と息を一つ零しベランダへ目を向ければ、黄色のカナリアが横たわっていたのだ。
男は急いで窓を開けてカナリアの手の平へと乗せた。
「おい!!しっかりしろよ!」
男の声は妙に外へと響いた。
カナリアは閉じていた目をゆっくり開けて小さなつぶらな瞳に男の姿を映す。
カナリアは一つ鳴いて動くことはなかった。
最期の力を振り絞って男に何を伝えようとしたのだろうか。