続・拗らせDKの偏った溺愛
あれは・・・!
上に乗っているのは伊村くんです。
彼は父の空手道場に通っている生徒さんであり、私の“憧れのお兄さん“である、まぁくんこと麻生政宗さんを“兄貴”と慕っている方です。
大学生にして既に師範代を任されるほどの実力者であるまぁくんの口癖は、
「何事も最後まで諦めない」
です。
竜也くんや野田くんの活躍を遠目に見ていたはずですが、それでも目の前の勝負から逃げるという選択肢は、まぁくんを慕う伊村くんに限って言えば、ないはずです。
ということは、彼にとって選択肢はひとつ。
たとえどんな強敵であろうと、怯まず果敢に挑戦!です。
伊村くんは、竜也くんと野田くんを真正面から見据えると、ゆっくりとした呼吸をひとつ。
狙うは野田くんの鉢巻き。
伊村くんの真剣な瞳が野田くんの姿だけを見つめていて、それはまるでまぁくんを相手に対峙している時のようです。
「伊村くん、すごく集中しています・・・」
私の呟きを虎谷くんが拾われたようです。
「美咲ちゃん、あの勇敢な彼のこと知ってるの?」
「あ、はい!父の道場に通ってらっしゃる生徒さんなんです」
「美咲ちゃんのお父さん、なんの道場をしてるの?」
道場という単語に興味を持たれたのか、不思議そうな顔をして聞かれました。
「空手です!」
「へぇ〜」
なんてやりとりをしている間も伊村くんと竜也くんの距離がどんどん縮まっていきます。
竜也くんたちを前にすると大抵は逃げるか、頑張って向き合っても騎馬役の腰が引けてしまって、まともな戦いにならないのですが…。
伊村くん率いる騎馬は堂々としています。
とうとう、両騎士がガッツリと組み合いました。