やわく、制服で隠して。
「深春。」

「どうしたの。」

「私、よく分かんないんだけど、変…かもしれないけど、深春に消えて欲しくない。」

「消える?」

「分かんない。分かんないけど…。私を置いて、一人で大人になったりしないで。」

「まふゆのほうがずっと先に大人になるのに。今だってそうよ。まふゆは十六歳で、私はまだ十五歳。十ヶ月も先に、まふゆは大人になっていくのよ。」

深春が子供をなだめるような目で私を見ている。
現実的にはほんの少し、私のほうが先に歳を取っていく。

それでも精神的には、やっぱり深春のほうが大人で、私が考えもしないようなことや、知らない世界を知っている気がして、そわそわした。

今日初めて会った、なんにも知らない女の子に対して、こんな感情を抱いてしまうなんて、やっぱり今日の私はどうかしているのかもしれない。

「まふゆ。」

繋いだままの手のひらに、深春がギュッと少しだけ力を加えた。
手のひらの温度がもっと伝わってくる。

「まふゆに会うのがちょっと遅かったけど、誕生日おめでとう。来年は、誕生日にちゃんと言うから。」

「まだまだ、ほとんど丸一年も先だよ。」

「一年先も不安?たった一日で私達、こんなに惹かれ合ってるのに。」

惹かれ合う。その言葉の意味が私にはよく分からなくて、ううん。分かってはいけないような気がした。

その気持ちを見透かすように、深春は目を伏せて、私の耳元に口を近づけた。

繋いでいた手を離して、深春は歩き出した。
深春が離した手のひらが、脈を打っているみたいに熱い。

「そのうち分かるよ。」

耳元で囁いた深春の声を、私は忘れられそうにない。
このまま、この感情に名前を付けるなら、この感情を認めてしまうなら、私と深春はきっと“友達”では居られない。

それが例えば“罪”だと言われても、その甘くて苦い味に、手を伸ばそうとしていた。
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