やわく、制服で隠して。
私は紙を持ったまま、ママを見た。
少し、ママの手が震えているような気がした。

「まふゆが置いたの?」

「うん。」

昨日、私とパパが家に帰ってもママは部屋から出て来なかった。
想定内だったし、私達は何も言わなかった。

この紙は、ママのあの薬の袋の上に乗せて、テープで留めていた。
そうすれば絶対に目に入ると思ったから。

「これ、どうしたの?」

「その人だぁれ?」

ママは何も言わない。

「名前が書いてるだけなのにどうしたの?」

「この人に会ったの?どこで?」

手だけじゃ無い。ママは声も震えている。

「その人がその名前だった頃は知らない。」

「…どういうこと?」

「ナツメ。棗さんっていうんだよ。今のその人。」

「ナツメって…。まさか…。」

名前を聞いただけで、せっかくさっきまで落ち着いていたママがこんなに動揺するなんて。
棗という名字にひどく動揺したのは、お母さんだけじゃなくて、おじさんのことも知っているのかもしれない。

「深春の…、お母さんだよ。」

「…本当なの?」

「本当も何も…私も昨日渡されただけだし、嘘つくメリットも無いじゃん。」

明らかに様子のおかしいママを見ていると、それに呼応するように心臓がドクンドクンと徐々に早く鼓動し始める。

“良くない状況”なんだってことは分かった。
だけど繋がりが全然分からない。
ママと深春のお母さんは多分、お互いのことを知っている。

深春のお母さんは自分の存在をママに知らせたくて、けれどママはそれに対して拒否反応を示しているってことしか、今の反応からは分からない。

ママのその拒否反応は私にとって、とても嫌なことだ。
私は深春とのことを許されたかった。
あわよくば認められたかった。

なのに事態は悪化しようとしている。
これ以上、このことは好転しない。

今それが、はっきりと分かってしまった。
< 100 / 182 >

この作品をシェア

pagetop