やわく、制服で隠して。
何の感情も感じられない顔。
絵に描いたような無表情。
ただ静かに、私に死ねと言っている、私を産んだ人。

「じゃあ死ねばいいじゃない。家族よりアンタはその深春って子が大事なんでしょ。私を壊したあの女の娘を。だったらもう、消えてくれない?そうすればあの女だってもう、私に関わってこないでしょ。」

「本気で言ってるの?」

「私はね、静かに生きたいだけなの。平穏に生きたいだけだった。」

ママは、そう言えばいつから私の前で自分のことを「私」って呼ぶようになったのだろう。
私が「ママ」って呼ぶから、ママも私の前ではそう言っていた。
きっと私に言葉を教えてくれた頃からずっと。

ママは私が気付く前よりずっと、私のママで居ることを辞めていたのかもしれない。

「本当に、本気で言ってる?ママ…。」

パタン、と部屋のドアが閉まる音が悲しく鳴った。
ママは何も言ってはくれなかった。

軽蔑するような目で私を見て、部屋を出ていってしまった。
「死」という言葉だけを私に残して。

深春を好きで居続けることは、ママにとっては死んだほうがいいことなんだ。
ママの過去は、深春のお母さんがママにした何かの過ちは、私には関係の無いことなのに。

あぁ、でもきっと、“そういうこと”なんだと思う。
ママの過去が、過ちが、自分には関係無いって思っている。
ママにとってもそうで、私がどれだけ深春を愛していても関係の無いこと。
私が深春とのことを許されたいって思うように、ママも自分の過去やこれからを守りたいと思っている。

私達はずっとすれ違っている。
自分以外の他人のことはどうでも良くて、自分だけが救われればいいって、きっと、私も思っていたんだ。

私が死ねば、ママは救われる。
パパにも平穏で普通の毎日が戻ってくる。

深春のことがどうしても好きで、それだけを守りたいのなら、その想いを貫いて死を選べば、じゃあこの恋は成就するのかな。

ちゃんと、本物だったって、認めて貰えるのかな。
世間は私達を許してくれるのかな。

だったらママの言葉が一番正しくて、それしかもう私には残されていないような気がした。
< 103 / 182 >

この作品をシェア

pagetop