やわく、制服で隠して。
翌朝。
制服に着替え終わって、最後にリボンを手に取った。

入学してから何回目だろう。
久しぶりに巻くリボンはやけに赤く見えた。

キュッと、巻き終わっても平常心を保っている。
一瞬込み上げてきそうだった嗚咽をグッと飲み込んで、多めに息を吐く。

それ以上の拒否反応を体は示さなかった。
それは多分、“死”と、はっきりとした言葉が心臓に刺さっているからだ。

今でも元カレの指や、食い込むリボンの感触は思い出せる。
それよりもママからの死という言葉が強烈に、過去の出来事を上塗りしてしまった。

悲しい方法での克服。
他人から死を願われるなら、恐怖心はあるけれどまだマシだったかもしれない。

家族から、私に命を与えた人から願われる死は、あまりにも残酷すぎる。

パパはとっくに出勤している。
ママは家に居るけれど、何も声をかけないまま、家を出た。

学校に行くのは気が重い。
深春に会えるけれど、今はどうしたらいいか分からないのも事実だ。

だけど気が重い分、学校にはあっという間に着いた。
校門をくぐって下足箱に行くと、その前で深春と、担任が待っていた。

「深春…と先生、おはようございます。」

「まふゆ、おはよう。」

「やっと来たわね。二人とも、お昼休みに必ず先生の所に来るように。」

深春は下足箱に背を向けて、先生の隣に立っていたけれど、サッと私の隣に移動してきて、二人で先生の向かいに立つ形になった。

「え、先生、それを言う為にずっと待ってたんですか?」

「棗さんは五分。あなたはその十分後。」

「…わざわざ待ってたんですか?教室で言えばいいのに?」

先生は呆れたように、わざと大袈裟に溜め息をついた。

「まったく。あなたね、教室で呼び出してごらんなさい。あなた達がしでかしたこと、全員に知られることになるわよ。」

私と深春は顔を見合わせた。
きっと私の感情と同じだ。
深春も不思議そうな表情をしている。

「とにかく、お昼休み、必ず来なさいね。さぁ、ホームルームが始まるから教室に行きなさい。」

そう言って、先生は先に階段を上っていった。

先生の背中が見えなくなってから、深春が「ここのほうが目立つよね。」って言った。
私は、シーってするみたいに人差し指を口元に持っていった。

深春はクスクス笑って、それから「会いたかった。」って言った。とても小さい声で。

「私もだよ。」

深春に話さなきゃいけないことが沢山ある。
それは多分、絶対…、深春にとっても悲しい話になる。

それでも深春がこれから生きていく環境に関わることだから、話さなきゃいけないんだ。
私の言葉で深春を傷付けてしまうことになるけれど。

それでも…。
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