やわく、制服で隠して。
「じゃあ、どうして嘘をついたの?」

大人達に何度もされた質問に、本当のことを告げたのはママにだけだった。
それは受け入れられなくて、関係を悪化させただけだった。

深春が何を言うのか、私は黙って待っていたけれど、深春もどう答えればいいのか悩んでいるみたいだった。

「…子どもの事情?」

先生は困ったように笑った。
私達を、責めなかった。

「子どもの…事情です。」

私は言った。
深春が私の手を握った。
先生の視線は、その行動に気付いていた。

「そう。じゃあ大人の事情を話してもいい?」

私達はコクン、と頷いた。

「どうすれば良かったかなんて先生にも分からない。先生対あなた達だけの問題ならもっと簡単だけど、クラスのみんなも関わってくるじゃない?」

「はい…。」

「その場合、どちらを優先するのが正解かなんて、先生にも分からないのよ。先生は先生だけど、全知全能じゃないから。」

私達が何も言わないから、先生は話し続けた。

「法律みたいに、はっきりとこうしなさい!ってルールブックがあれば簡単なんだけどね。そうじゃないから、経験とか誰かに助言を貰ったりしながら、自分自身でルールブックを作っていくしかないのよね。それでも対人間だから毎日毎日予想外のことばっかり。」

先生はわざとらしく肩をすくめておどけて見せた。
笑っていいのかどうか分からずに、私達は「ごめんなさい」って呟いた。

「そうなると教師だからじゃなくて、一人の人間として決めるしかなかった。自分の中ではっきりと分かっていたことは、クラスのみんなには黙っていること。さっきも言ったように悪循環にしかならないし…、あぁ、えぇっと、みんなを悪く言ってるわけじゃなくてね?それを聞いても誰も幸せな気持ちにはならないから…。んー。難しいわね。」

「大丈夫です。伝わってます。」

深春が言って、私も頷いた。
先生も安心したように笑った。

私達がサボったっていうことを聞いて、みんなが陰口を叩いたり嫌がらせをすると思ったわけじゃない。
みんなは正しくきちんとやっているのに、それを聞いても気分を悪くする、誰も楽しくないっていうこと。

黙っているって先生の決断が正しかったかどうかは私達にだって分からない。
どの答えを先生が出しても、私達に判断する権利なんて無いから。
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