やわく、制服で隠して。
「それにね、本当は少し、棗さんと楠さんへの罪悪感もあった。」

「罪悪感?」

「電話なんてしなきゃ良かったって思ったのよ。ご自宅に。先生が今から言うことは、ここだけの秘密にしてくれる?」

私達はまた小さく頷いた。

「楠さんのご自宅に電話をかけた時、お母様が出られたでしょう。その時の声色を聞いて、二人はきっと仮病を使ったんだってすぐに分かった。電話をしたのは体調をお伺いすることと、野外学習中は安静にして自宅待機するようにって伝える為だった。でも予想外の方向に転がっちゃって。とても失礼な言い方をするけれど…、楠さんのお母様、先生の話を聞いた時、声が普通じゃない気がしたから…。」

深春が机の下で握っている手にギュッと力を込めた。
私は何も言えずに俯いた。
家族だけじゃない。他人にもそれが伝わってしまって恥ずかしかった。

「棗さんのお父様は正反対で、妙に落ち着いているっていうか。先生、本当はね、どちらの反応にもビビってたの。」

自嘲気味に先生が笑う。
私達がちゃんとしていれば、先生に余計な心配をかけなくて済んだのに。

「野外学習が終わって、学校で解散した後にね、実はもう一度二人のご自宅に電話をしたのよ。」

「え、そうなんですか?」

深春が驚いた声を上げた。
私も初耳だったから驚いた。

「どちらもお父様が出られて。一度お話をしに伺いますって言ったら、こちらで話は済んでるから大丈夫ですって断られたの。学校のことが関わっているからちゃんとお会いして話したほうがいいと思ったんだけど、ご両親がそうおっしゃるならそれが正しいのかしらって…。ちょっと悩んだけど、そうさせてもらうことにしたの。これは先生の逃げかもしれないわね…。」

「逃げ…ですか?」

私の言葉に先生は頷いた。

「ご両親に断られても、本当はそれでもお伺いするのが正しかったかもしれない。それでもそうおっしゃるならって、先生は素直に受け入れてしまったの。でもあなた達のことを想うなら、きちんとご両親にもお会いして、話をするべきだった。先生は非難されても仕方ないことしちゃったのかなって、この土日の間、悩んでた。」

私達は何故だか分からないけれど、教師という立場の人に対して絶対的な決定権があるものだと自然と思っている。

先生が言うのだから正しい、先生がそうしなさいって言うからした。
そうやって、無意識のうちに責任を押し付けている。

本当は教師の前に一人の人間で、今私達の前にいる先生みたいに、どうすれば良かったのか分からなくて悩んで、泣き出したくなることだってあるはずなのに。

「ごめんなさい。」

深春が座ったまま頭を下げた。
私も同じように謝って、頭を下げた。
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