やわく、制服で隠して。
「母さん、何でそんなまどろっこしいことするんだろ。同級生なら普通に話せばいいし、お母さんによろしくねとかでいいのに。母さん、そんな謎解きみたいなこと好きだったっけなぁ…。ていうか凄くない!?親同士が同級生だったなんて。やっぱ運命…」

「深春。」

興奮したように饒舌に言葉を並べた深春を、なだめるように名前を呼んだ。
らしくない興奮した様子の深春は、ピタッと止まって、いつもの冷静な表情をした。

解っている。
深春の中で違和感が生まれて、それが何なのか、知るのが怖いと思っている。
だから言葉を並べて、おどけて見せようとしている。

「深春。多分、これって楽しい話なんかじゃない。」

「…うん。」

「ママ…、ママがね、深春のお母さんのこと知った時、おかしくなったの。」

「母さんのことで…?」

「うん…。声を荒げて、名前を教えたのかって、深春はあの子の娘だったのかって。取り乱して…、私に退学か編入しろって…。」

深春は口元に手を当てて、俯いている。
深春の中でうまく想像できているだろうか。
いや、鮮明に想像されていたら、私は恥ずかしくていたたまれない。
家族の恥を晒しているのと同じだ。

でも、事実だからしょうがない。
おかしくなってしまった家族が、今の私の真実。
もう戻れないのだから。

「退学?編入?なんで…?」

深春の言葉に首を振った。

「分かんない…。何でそこまで拒絶するのかは分かんないけど、私と深春を会わせたくないし、深春のお母さんが関わってくるのが…怖いみたいで。」

「それってさ。」

深春がしっかりと私を見た。
しっかりと見たけれど、その目は怯えている。
言葉にしてしまったら、全てが、今までの生活が変わってしまうことを分かっている人間の目だ。

「うん。」

「異常だよ。」

“異常”と言った深春の言葉が、どちらに宛てられた言葉なのか。
多分、両方だ。
ママの言動も、そうさせているおばさんの過去も。

「母さんは何をしてしまったんだろ…。」

「分かんない。でも、多分…深春が言う通り、これって異常なの。深春のお母さんが誰か知っただけでここまで取り乱すなんて、過去に良くないことがあったとしか思えない。」

深春は考えるように長めにまばたきをして、ようやく口を開いた。

「調べてみる…しかないよね。」

「うん…。でも、どうやって?」

深春が窓を開けた。
サッカー部や野球部、陸上部やテニス部達の声がさっきよりも大きくなる。

遠くのほうで聞こえていたと思っていたけれど、声は案外近い。
当たり前だ。
運動場は校舎のすぐ下なんだから。

二人きりの教室には冷房が少し効きすぎていて、少し寒くなっていた。
窓を開けたら流れ込んできたぬるい風で肩の力が抜けていく。
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