やわく、制服で隠して。
「嘘だよ。」

俯いたままの私の手を、深春がいきなり掴んで椅子から立たせた。
そのまま私の手を引いたまま、深春は歩き出した。

「ちょっ…深春!?」

深春は返事をしないし、振り向きもしないまま教室を出て、歩くスピードは徐々に速くなった。

手を繋いだままの私達は次第に走り出して、途中、廊下ですれ違った先生に「廊下を走るな!」と叱られながら二人で階段を駆け上がった。

「深春っ…!何処まで行くの!」

深春は答えない。
三階分の階段を駆け上がって、最後らへんはしんどい脚が重たかったけれど、不快じゃないのはどうしてだろう。

階段の突き当たり。屋上のドアの前まで来て、私達はようやく止まった。行き止まりだ。

二人とも呼吸が荒い。肩が上下に動く。
吸って吐いてを繰り返して、呼吸が整うまで、二人とも何も言わなかった。

呼吸が整った頃、深春が一つ、深く息をついて、右手で横髪を耳にかけた。

横顔もすごく綺麗。まつ毛が長くて、鼻筋がシュッとしている。
顎のラインにもムダが無くて、ここまでくると無機質なお人形みたいだ。

「深春、どうしたの。」

「まふゆのこと、知りたくないわけじゃないの。」

深春は人差し指でセーラー服のリボンをくるくるとイジッている。
深い赤色。どっちかって言うとエンジっぽい。

「私が、全部を話す義務なんて無いって言ったから、まふゆは怒ってるんでしょう。」

「怒ってなんか…。」

「ううん。いいの。だって私達、出会ってから一ヶ月は経つのに、彼氏が居ることも聞かされてなかった。そのことに最初に怒ってたのは私なんだから。」

「怒ってたの?」

「そうよ。」

「ごめん。」

怒っている。そう言った深春の口調は淡々としていて、本当に怒っているようには見えない。
けれど深春がそう言うのなら、そうなのだろう。

私の“隠し事”に深春は怒っていた。
それは、私の気持ちを高揚させた。
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