やわく、制服で隠して。
ドサッと、ママがベッドに座った。
「隣、座ってもいい?」
ママは何も答えなかったけれど、否定だってされていないから、私は少し隙間を空けてママの隣に座った。
何から切り出せばいいのだろう。
言いたいことも、ママの言葉で聞きたいことも沢山あるけれど、どんな言葉を並べても私達親子の絆が戻ることはもう無い。
ここまで来たらもう気を遣うことも無いのに、頭では言葉を選んで、色々考え過ぎて、なかなか話を切り出せずに居た。
「会ったの?棗くんに。」
「…うん。」
「そう。」
話を切り出したのは意外にもママのほうからだったけれど、最初の切り口が“棗くん”だったことは、やっぱり少し悲しかった。
「あの子も居たの?」
「あの子って?深春?お母さん?」
「…どっちもよ。」
「うん。四人で会って、深春のお母さんに話を聞いた。ママ達の…、高校生の頃の話と、私と深春のこと。」
私とママの静かな呼吸音が微かに聞こえる。
ママは落ち着いていた。
もっと声が震えてしまうかもって思っていたけれど、不思議と私も落ち着いていた。
こんな話をきっかけにようやくママとゆっくり話が出来るなんて、本当に何て残酷な現実なのだろう。
「ねぇ。ママはさ、深春のお父さんがおばさんのことを好きだったから、おばさんのことが憎かったの?」
「…そうね。最初はそうだったのかもしれない。高一の時に棗くんに出会って、一目惚れをした。一年間ずっと好きで、高二でクラスが離れてしまってね。棗くんはよくモテたから接点が無くなってしまったら私の存在なんてすぐに消えてしまうって思ったのよ。」
ママと話が出来て嬉しいはずなのに、ずっと望んでいたことなのに、私は泣いてしまわないように何度も生唾を飲み込んだ。
どこかで“これが最後”だと予感してしまう。
この話が終わったら私とママは、完全に“親子”では居られなくなる気がした。
「一年の時、私達は仲が悪かったわけじゃないし、正直棗くんの彼女になるなら、自分は合格だって思ってた。」
ママは懐かしむように、そしてその頃の自分を卑下するみたいに小さく笑った。
「誰かに取られるくらいならって、思い切って告白をした。人生で初めての告白だった。でもね、棗くんは笑顔で私をフッたわ。…理由はもう分かってると思うけど。悔しかった。すごく悔しくて、悲しかった。」
その日からママは深春のお母さんのことを一方的に敵視した。
高三になって三人とも同じクラスになった時は本当におかしくなりそうだったという。
せめて深春のお母さんと自分だけがクラスメイトだったら良かったのに。
同じ空間で、二人がまとめて視界に入ってくるたびにどうにかなりそうな感情を必死で抑えていた。
それほどママは、深春のお父さんのことが好きだった。
「隣、座ってもいい?」
ママは何も答えなかったけれど、否定だってされていないから、私は少し隙間を空けてママの隣に座った。
何から切り出せばいいのだろう。
言いたいことも、ママの言葉で聞きたいことも沢山あるけれど、どんな言葉を並べても私達親子の絆が戻ることはもう無い。
ここまで来たらもう気を遣うことも無いのに、頭では言葉を選んで、色々考え過ぎて、なかなか話を切り出せずに居た。
「会ったの?棗くんに。」
「…うん。」
「そう。」
話を切り出したのは意外にもママのほうからだったけれど、最初の切り口が“棗くん”だったことは、やっぱり少し悲しかった。
「あの子も居たの?」
「あの子って?深春?お母さん?」
「…どっちもよ。」
「うん。四人で会って、深春のお母さんに話を聞いた。ママ達の…、高校生の頃の話と、私と深春のこと。」
私とママの静かな呼吸音が微かに聞こえる。
ママは落ち着いていた。
もっと声が震えてしまうかもって思っていたけれど、不思議と私も落ち着いていた。
こんな話をきっかけにようやくママとゆっくり話が出来るなんて、本当に何て残酷な現実なのだろう。
「ねぇ。ママはさ、深春のお父さんがおばさんのことを好きだったから、おばさんのことが憎かったの?」
「…そうね。最初はそうだったのかもしれない。高一の時に棗くんに出会って、一目惚れをした。一年間ずっと好きで、高二でクラスが離れてしまってね。棗くんはよくモテたから接点が無くなってしまったら私の存在なんてすぐに消えてしまうって思ったのよ。」
ママと話が出来て嬉しいはずなのに、ずっと望んでいたことなのに、私は泣いてしまわないように何度も生唾を飲み込んだ。
どこかで“これが最後”だと予感してしまう。
この話が終わったら私とママは、完全に“親子”では居られなくなる気がした。
「一年の時、私達は仲が悪かったわけじゃないし、正直棗くんの彼女になるなら、自分は合格だって思ってた。」
ママは懐かしむように、そしてその頃の自分を卑下するみたいに小さく笑った。
「誰かに取られるくらいならって、思い切って告白をした。人生で初めての告白だった。でもね、棗くんは笑顔で私をフッたわ。…理由はもう分かってると思うけど。悔しかった。すごく悔しくて、悲しかった。」
その日からママは深春のお母さんのことを一方的に敵視した。
高三になって三人とも同じクラスになった時は本当におかしくなりそうだったという。
せめて深春のお母さんと自分だけがクラスメイトだったら良かったのに。
同じ空間で、二人がまとめて視界に入ってくるたびにどうにかなりそうな感情を必死で抑えていた。
それほどママは、深春のお父さんのことが好きだった。