やわく、制服で隠して。
「それだけならまだ、その空間さえ我慢すれば良かったのに、あの子は私のストーカーだった。」

ストーカーと言ったママの声は、憎しみで満ちている。
“ストーカー”の基準は分からないけれど、深春のお母さんの行動は確かに“普通”では無くて、その結果、こんな悲劇を生み出したあの人達の行動は許されてはいけないと思った。

「怖かった。ずっと見張られているみたいで。粘着質な視線が毎日毎日追いかけてくるのよ。唯一気を許された自宅まで奪われた時は、純粋に殺意が湧いたわね。」

ママが渇いた笑い声を上げる。
きっと冗談なんかじゃない。
本当にそうしなかっただけでも、多分ママは偉かった。

「だけどね、私の人生も最低なだけじゃないって思える時が来たの。」

「大学生になって？」

「そうよ。棗くんが自分と同じ大学を受験するって決まった時。単純に、彼の偏差値なら他の大学に進むなんてもったいないって思っていたし、しかもあの女はついて来ない。地元からの進学生は私達二人だけだった。」

「やっと…、ママが望んでいた生活を手に入れたんだね。」

「えぇ。それから棗くんと付き合うことになって、こんなに時間がかかっちゃったけど、こんな日が来るならあの最低な日々も乗り越えて良かったって思えた。それからまた二人して同じ会社に内定が決まって、二人揃って地元に戻ることになった。地元に戻ることは怖かったけれどあの女は県外で就職が決まったらしいって人づてに聞いて、全部が今まで耐えてきた私へのご褒美だと思った。素敵な夢みたいな日々だった。」

「深春のお父さんは、優しかった？」

ママは一呼吸置いて、少し考えてから軽く笑った。
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