やわく、制服で隠して。
その日、私達は、私の家のリビングで話していた。

昨日ママが家を出ていったこと。
いつ戻るかは分からない。
パパは平気なフリをしているけれど、きっと気持ちを隠しているだけだろう。

そんな、私の家族の結末を話していた。
私の家の中に深春が入るのは思えば初めてで、ママが出ていって、私達が死を決意してからそれが叶うなんて、皮肉だなって思っていた。

私達はそれぞれに近状報告…と言っても、たった数日の出来事を簡単に教えあって、それでも自分達の決意が変わらないことを話し合った。

「じゃあ、いつにする?」

深春が切り出した。
私は立ち上がって、壁に掛けてあるカレンダーを取って、深春が座るソファに戻った。

「真ん中バースデーの日にしよう。」

「“真ん中バースデー”…?」

深春が私の顔を見て、私は頷く。

「前にね、聞いたことがあるの。ママ達が学生の頃、おまじないとかそういうのが流行って、それだけの雑誌とかもすごく売られてたんだって。それでね、“真ん中バースデー”っていうのがあって、自分と好きな人や、友達同士の記念日を計算するの。単純なんだけど、深春が二月で私が四月だから、こうやって…。」

言いながら私はカレンダーのページを二月にしたり四月にしたりしながら、指で順番に三月のほうへ辿っていく。

二月十五日生まれの深春と、四月三日生まれの私の誕生日のちょうど真ん中は、三月十日になった。

「三月十日。」

深春が言う。
私も頷いて言った。

「うん。この日を私と深春の記念日にしよう。」

「記念日?命日じゃなくて?」

深春はクスクス笑った。
不思議と私も笑えた。

「“記念日”のほうがいいよ。私と深春のハッピーエンドの為の。」

「うん。」

「それとも、もう少し後にする?四月に入ってからとか…。もう一回一緒に桜見たくない?」

深春は首を横に振った。
穏やかな表情で。

「キリが無いよ。この日にしよう。」

「分かった。」

私は三月十日にマジックで赤丸を付けた。
パパが気付いたら何の日かと聞いてくるかもしれないけれど、そんなものは適当に誤魔化せばいい。

「幸せになろうね、私達。」

深春が言って、私は笑う。
死こそが最後の幸せだなんて可笑しいけれど、私達はきっと後悔なんてしない。

その日だけを生きがいに生きる。
死を生きがいにする、最後の人生。

深春が十六歳になるのを待って、私は十七歳にならないまま。

カウントダウンが始まった。
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