やわく、制服で隠して。
「どうしてこんなことをしたの?」

生徒指導室を出て、担当の先生の背中を見送ってから、担任が私達に聞いた。
深春が「そのうちに分かります。」とだけ言った。
担任は困った顔をした。

「先生のことは好きだから迷惑掛けたく無かったけど、担任だから結果迷惑掛けてごめんなさい。でも、いい思い出になりました。」

「思い出…?」

担任は不思議そうに私を見たけれど、それ以上は答えなかった。

「行こ。」

深春の手を取って歩き出す。
もうなんにも怖くなんてないから、私達は所謂“恋人繋ぎ”ってやつで手を繋ぎ合った。

担任は私達を呼び止めなかった。
すれ違う生徒が何人か私達を振り返ったけれど、私と深春は離れたりしない。

その日から、学校でも外でも人目を盗んではキスをしたり、放課後、誰も居なくなった教室で、教卓の裏に隠れてもっと深いところまで口づけ合ったりした。

白く透けるような深春の肌が赤く染まっていくのが好きだった。
首より上には口づけない。
制服で隠れる場所。二人だけの秘密だ。

もっと、もっとって熱に浮かされたようにねだる深春が愛おしくて苦しくなる。

「どっちかが男だったら良かったのにって今でも思う?たとえキョーダイだったとしても、片方が男だったらまだ良かったのにって。」

ある日、私の部屋で深春がセーラー服のリボンを整えながら言った。

「思わないよ。」

私は即答した。
性別なんて関係ない。もしも来世また同性として出会っても私は絶対に深春を好きになる。
それだけは絶対に覆せないから、もしも性別が違ったらなんて、そんな無駄なことはもう考えない。

「私も。」

深春はにっこり笑った。
整えたばかりのセーラー服を、私はまたぐちゃぐちゃにした。

深春は笑いながら「もー!」って怒ったけれど、私は聞かなかった。
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