やわく、制服で隠して。
十一月。
一年生は“職場体験”の行事があった。
いくつかの企業が学校と連携して、一日体験をさせてくれる。

企業が提示する募集人数は、学年全体での人数だから、一つの企業につき、一クラス三人ずつくらいまでしか行けない。

人気の企業だとジャンケンになって、負け続けたら一体何番目の希望に通るか分かったもんじゃない。

「ねぇ、ここに立候補しようよ。」

企業一覧の中で深春が指差したのは、この県で一番大きい駅に隣接している商業施設。
ファッションブランド、県で一番スクリーン数の多い映画館、ゲームセンター、雑貨屋さんや一日中滞在出来そうな本屋さん、飲食店も制覇出来ないくらいある。

当日は現地集合、現地解散で、交通の便が悪い場所だと行きにくいし帰りにくいし、無事に辿り着けるかさえ不安になる。

でも、この商業施設は駅も学校の最寄りだし、場所を知らない人なんていない。
体力的にもヘビーな作業は無さそうだし、これって多分、一番人気の企業だ。

「いや深春、多分みんなが希望するよ。」

「だからよ。」

「え?」

「裏をかくの。」

深春は得意げに笑っている。
誰がどこに行くって事前に分かってしまうと“不公平”が生まれる可能性があるから、まずは紙に希望の企業と名前を書いて、担任が設置した箱に投函するようになっている。

私の返事を待たずに、深春は二枚の紙に私と深春、企業名を書いて、さっさと投函してしまった。

「ねぇー!本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。みんなさ、人気の所を希望したら、ジャンケンばっかりになって、結果本当に行きたくない所に行く羽目になりかねないじゃん?そんなの絶対嫌じゃん?だから一番人気そうな所は候補から外すと思う。」

深春はニッと笑った。

それでも私は不安だったけれど、職場体験の一週間前。
担任が発表した行き先は、私も深春もすんなり第一希望に当選した。

少し離れた席から小さくピースサインを作って深春が笑っている。
このクラスで深春が大優勝だ。
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