やわく、制服で隠して。
ママにも認められなかった私の恋は、他人にはこんなにあっさりと受け入れられることもある。

“受け入れられた”とはちょっと違うのかもしれない。
ママが“棗くん”に対して言った、興味の無い優しさ。
それがこれかもしれないと実感した。

別に自分には関係無いから。
良いとか悪いとか思うほど、他人事に興味が無いから。
ちょっと気になっただけだから。
否定をしない、というだけの、これと言って愛情も無い優しさ。

それが今の私には不快じゃない。
そんなことを今更知ったって、もう手遅れなんだけど。

死を前にしたからといって、人生は急に特別なことばかりが起こるわけじゃない。
なんならあの夏休みほど、劇的なことはもう起こらないだろう。

例えばある日大病を患って、漠然とした余命宣告を受けたとする。
それはとても苦しくて、神様の裏切りだと思うだろう。
望んでもいないのに、生きていたいのに命の期限を決められてしまう。
一分一秒が重く、尊く、かけがえのないものになるだろう。

私達はそうじゃなかった。
寿命がはっきりと見えている。
月、日。私達が決めた命の期限。
その日は間違いなくやってくる。

十六年という命はきっと短い。
これから先の未来を自ら捨てた、命を粗末にした、身勝手な死だと、私達の死後も後ろ指を指されるかもしれない。

死んだ後に、世界が劇的に変わったって、誰かの恋愛が成就したって、それはもう私と深春には関係の無い話。

そうやってはっきりと自分達の死が目の前に迫っていても、私と深春のクリスマスもお正月も、新しい年の始まりも、そして三学期もゆっくりと平凡に流れていった。

ドラマや小説みたいに、クライマックスに向けて盛り上がりを見せていく、なんてことは無くて、ある日突然出会った運命の女の子が実は妹で、両親の過去は悲劇にまみれていて、普通だと思っていた家族は崩壊して、娘達は死を選ぶ。
それ以上のことは、この半年間には起きなかった。

余生なんてものは、こういう感じに平凡に過ぎていって、静かに終わりの日を迎えるのかもしれない。
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