やわく、制服で隠して。
出会い。
「まふゆ、って言うんだ。」
春なのに、窓の外には桃色の花びらでオシャレした桜の木が何本も植っているのに、教室の机も椅子も、まだ少し冷たい。
おんなじ“木”なのにぬくもりは感じられない。
学校はダルい。
それが一番の理由かもしれない。
たとえそれが、入学式っていう、特別な日であっても。
高校生だからって、きっと何も変わらない。
どうせ中学からの延長戦だ。
適当に授業を受けて、教師の面倒くさい説教も受けて、“自分に見合った”友達とバカみたいな毎日を過ごすだけ。
「まふゆ、って言うんだ。」
机に伏せて、腕を枕にして目を瞑っていた私の頭上から、名前を呼ぶ声が落ちてきた。
腕から頭を上げて、目の前に立つ女子の顔を見上げた。
校門で新入生に配られていた“新入生”を示す、赤いリボンで花の形に模られた紋章のような物を、制服の上に見つけた。
当たり前だけれど、私のとお揃いだ。
透けるような白い肌。それに抗うかのようなツヤツヤの黒いロングヘア。
何度も脱色して傷んだ私の髪の毛とは別物みたいだ。
何かを見透かすような、冷たい瞳。
高くも低くもない、スッと耳に馴染む声。
モノクロだ、って思った。
この子を纏う全てがモノクロに見えて、だから余計に、制服の上の赤い紋章が居心地悪そうに見える。
「そうだけど。何で名前、知ってるの?」
訊いた私に、女子がスッと机の上を指した。
「あぁ。」
入学式の前に準備されていたのだろう。
一人一人の机の上に、長方形のピラミッドみたいな形の、手作りのネームプレートが置かれている。
そこにはしっかりと、生徒の名前がマジックで書かれていた。
納得して頷いた私に、その子は言った。
「みはる。」
「え?」
「みはる。私の名前。深い春って書いて、みはる。」
「…ふーん。」
正直、似合わないなって思った。
この子のどこを見ても、「深い春」は感じられなかった。
「何で、私に話しかけたの?」
「似てたから。名前が。似合わないって思った?」
「え…?」
「春っぽくないなって思ったでしょ。」
深春は私を見下ろしたまま、静かにそう言った。
相変わらず冷たい目。
何かを見透かすようなその瞳が、私は嫌いじゃないなって思った。
「うん、少し。」
「素直なんだね。まふゆは。それに、まふゆのほうが春っぽい。」
「私が?そんなこと言われたこと…」
言いかけた私の頬に、深春の小指が触れた。
そっと撫でるように触れた指は少し冷たくて、私の肩がピクッと動いた。
「チーク。桜みたいね。」
春なのに、窓の外には桃色の花びらでオシャレした桜の木が何本も植っているのに、教室の机も椅子も、まだ少し冷たい。
おんなじ“木”なのにぬくもりは感じられない。
学校はダルい。
それが一番の理由かもしれない。
たとえそれが、入学式っていう、特別な日であっても。
高校生だからって、きっと何も変わらない。
どうせ中学からの延長戦だ。
適当に授業を受けて、教師の面倒くさい説教も受けて、“自分に見合った”友達とバカみたいな毎日を過ごすだけ。
「まふゆ、って言うんだ。」
机に伏せて、腕を枕にして目を瞑っていた私の頭上から、名前を呼ぶ声が落ちてきた。
腕から頭を上げて、目の前に立つ女子の顔を見上げた。
校門で新入生に配られていた“新入生”を示す、赤いリボンで花の形に模られた紋章のような物を、制服の上に見つけた。
当たり前だけれど、私のとお揃いだ。
透けるような白い肌。それに抗うかのようなツヤツヤの黒いロングヘア。
何度も脱色して傷んだ私の髪の毛とは別物みたいだ。
何かを見透かすような、冷たい瞳。
高くも低くもない、スッと耳に馴染む声。
モノクロだ、って思った。
この子を纏う全てがモノクロに見えて、だから余計に、制服の上の赤い紋章が居心地悪そうに見える。
「そうだけど。何で名前、知ってるの?」
訊いた私に、女子がスッと机の上を指した。
「あぁ。」
入学式の前に準備されていたのだろう。
一人一人の机の上に、長方形のピラミッドみたいな形の、手作りのネームプレートが置かれている。
そこにはしっかりと、生徒の名前がマジックで書かれていた。
納得して頷いた私に、その子は言った。
「みはる。」
「え?」
「みはる。私の名前。深い春って書いて、みはる。」
「…ふーん。」
正直、似合わないなって思った。
この子のどこを見ても、「深い春」は感じられなかった。
「何で、私に話しかけたの?」
「似てたから。名前が。似合わないって思った?」
「え…?」
「春っぽくないなって思ったでしょ。」
深春は私を見下ろしたまま、静かにそう言った。
相変わらず冷たい目。
何かを見透かすようなその瞳が、私は嫌いじゃないなって思った。
「うん、少し。」
「素直なんだね。まふゆは。それに、まふゆのほうが春っぽい。」
「私が?そんなこと言われたこと…」
言いかけた私の頬に、深春の小指が触れた。
そっと撫でるように触れた指は少し冷たくて、私の肩がピクッと動いた。
「チーク。桜みたいね。」