やわく、制服で隠して。
日曜日の朝。
いや、スマホの中に映る時計は、もうすぐ正午になろうとしている。

カーテンは閉め切っていたけれど、白っぽい窓の向こう。よく晴れているっていうことが分かった。

ベッドから起き上がって伸びをした。
ググッと背筋が伸びて、少しスッキリした。

パジャマからお出掛け用の洋服に着替える。
ハイネックのトップスに、スキニーパンツ。

パーカーを羽織って、鞄に財布とスマホだけを入れて家を出た。
シンプルな格好だけど、何でもいい。首元さえ隠せればそれで。

押し開けたドアの上の方で、ちりんと小さくベルの音が鳴って、すぐ側でお仕事をしていたお姉さんが「いらっしゃいませ。」と微笑んだ。

「あの…予約してないんですけど大丈夫ですか。」

うまく目を合わせられない私に受付のお姉さんは「今はちょうどお客様も空いているので大丈夫ですよ。」と、また笑ってくれた。

飛び込みでやって来た美容室。
いつもなら一番忙しい時間帯だと思うし、予約をしないで来るのは迷惑かなって思ったけれど、どうしても今日がいいと、衝動的に来てしまった。

穏やかなお姉さんの笑顔にホッとする。
「こちらにご記入してお待ちください。」と病院のカルテのような物を渡されて、頷いて受け取ってからベンチに座った。

希望のヘアスタイルはショート。カラーは濃いめのブラウン。
トリートメントも希望。

色々と記入していると「お待たせ致しました。」と頭の上から声がして、顔を上げるとロングヘアの綺麗なお姉さんが笑っている。

ペコッと頭を下げて立ち上がってからカルテを手渡した。

「よろしくお願いします。」

通された鏡の前。チェアに座って、鏡越しにお姉さんの動きをジッと見ていた。
美容室の大きな鏡に映る私の首元には、やっぱりまだ青黒い痕が残っている。

これから切り落とされる髪の毛と一緒に無くなってくれたらいいのに。
そう願ったけれど、そんな魔法みたいなことは、もちろん起こらないことくらい知っていた。
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