やわく、制服で隠して。
カットとカラーが終わって、かなり軽くなった気がする。

鏡の中に映る自分は別人とまではいかないけれど、見慣れなくて変な気分だ。

ショートヘアなんていつぶりだろう。
ずっと長くて、中学に上がってすぐに脱色した髪の毛は相当痛んでいたと思う。

トリートメントもしてもらって指通りが良くなった髪の毛は、凄く気分が良かった。

「これ、どうぞ。」

お姉さんが小さい箱に入った、トリートメントの試供品をくれた。

「今日使ったトリートメントよ。一週間分くらいは入ってるから家でも試してみてね。」

「ありがとうございます。」

トリートメントはいい匂いがして、気になっていたから嬉しい。
ホテルのアメニティみたいでワクワクした。

受付でお会計をしてもらって、美容室を出た。
髪の毛が無くなったら首筋に風が直に当たる感じがして少し肌寒い。

その足で近くの和菓子屋さんに向かった。
塩大福が美味しいって人気の地元の和菓子屋さん。雑誌に紹介されたこともある有名店だ。
ここで塩大福六個入りを六箱買った。

美容室代も大福代も全部、高校の入学祝いで親や親戚に貰ったお金から支払った。
だから本当は私のお金で買ったわけじゃない。

こういうところも、私は子供だったんだなって実感する。
アルバイトでもしようか。ふと頭をよぎった。

少しでも社会を経験してみるのもいいかもしれない。
あんなに大人ぶっていた私は、本当は何も知らなかったのだから。


手土産が六箱入った紙袋を抱えて、深春の家へ向かった。
深春の家には一回だけ来たことがあった。
放課後、いつものようにふらふら歩いていたら深春の家に着いていて、中には入らなかったけれど、学校からそう遠くはなかったから、道は覚えていた。

インターホンを鳴らすと、インターホンのマイク越しに、「どちら様でしょうか。」と声が聴こえた。
深春の声だ。

「まふゆ。」

名前だけ短く言うと、プツッとインターホンの切れる音がして、玄関の向こうからパタパタと足音が聞こえてきた。

「まふゆ!?」

玄関が開くと同時に、驚いた顔の深春が見えた。
Tシャツの上に、ゆるいリブパンツ、私のと同じようなグレーのパーカーを羽織っただけの深春は、セーラー服姿よりも年相応に子供らしく見える。

「ごめんね。学校、ずっと休んでたのに突然来ちゃって。」

「ううん…。え、ていうか、髪の毛…。」

まだ驚いたままの深春に、私はニッと笑って見せた。

「私の髪の毛、深春が似合わないって言うからだよ。」
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