やわく、制服で隠して。
「思いっきり切ったね。」
深春が私の毛先に触れて、その手をストンと下ろした。
「うん。生まれ変わったみたいでしょ。」
「色も、似合ってるよ。」
似合ってる。深春にそう言われて嬉しかった。
童話の中のお姫様が魔法をかけられて生まれ変わったみたいに、ファンタジーの世界じゃなくても“魔法”はあるんだって思った。
「あ、そうだ。まふゆ、今お父さんは居ない?」
「うん。出てるよ。」
「そっかぁ。じゃあ、これ。直接お礼を言えなくてすみませんって伝えてもらえるかな…。」
「わー。ここの大福、家族みんな好きだよ。でもわざわざいいのに。父さん言ってたよ。“害”が炙り出せて良かったって。」
深春が眉間に皺を寄せて笑った。その顔を見て、私も吹き出した。
「でも、まぁ…“良かった”なんて、まふゆは何も良くないよね…ごめん。」
「ううん。私も、もっと長引く前に縁が切れて良かったよ。」
「そう?」
深春が私の首に触れた。
その指が魔法の杖なら、この痣も簡単に消してもらえるのに。
「一緒に居るから。」
「うん。」
「まふゆが苦しい時、泣いちゃう時、幸せな時も、まふゆの隣は全部私のにして。」
「うん。」
どんな魔法よりも深春の存在が一番大事。それ以上の物なんてこの世界には存在しない。
そう、本気で思ってしまった。
「それは?」
私が持っている、残り五箱が入った紙袋を深春が指差した。
「あ、これ。お世話になった人達の所にも配ろうと思って。」
「分かった。案内してあげる。でもあのマンションの前にも行くよ。平気?」
コクンと頷いた私に、深春が微笑んだ。
「着替えてくるから上がって待ってて。」
「ううん。ここで待ってるよ。風が気持ちいいから。」
「分かった。すぐ済ませるね。」
パタンと玄関の扉が閉まった。
今日は本当に風が気持ちいい。
もうすぐ六月になって、大嫌いなジメジメした季節になるけれど、それまでのほんのちょっとの好きな時間だ。
梅雨になる前にヘアカットをして良かったかもって思った。
まだ癖で何度も毛先を掬っては違和感を覚えるけれど、今の私には必要なことだったと思えた。
深春が私の毛先に触れて、その手をストンと下ろした。
「うん。生まれ変わったみたいでしょ。」
「色も、似合ってるよ。」
似合ってる。深春にそう言われて嬉しかった。
童話の中のお姫様が魔法をかけられて生まれ変わったみたいに、ファンタジーの世界じゃなくても“魔法”はあるんだって思った。
「あ、そうだ。まふゆ、今お父さんは居ない?」
「うん。出てるよ。」
「そっかぁ。じゃあ、これ。直接お礼を言えなくてすみませんって伝えてもらえるかな…。」
「わー。ここの大福、家族みんな好きだよ。でもわざわざいいのに。父さん言ってたよ。“害”が炙り出せて良かったって。」
深春が眉間に皺を寄せて笑った。その顔を見て、私も吹き出した。
「でも、まぁ…“良かった”なんて、まふゆは何も良くないよね…ごめん。」
「ううん。私も、もっと長引く前に縁が切れて良かったよ。」
「そう?」
深春が私の首に触れた。
その指が魔法の杖なら、この痣も簡単に消してもらえるのに。
「一緒に居るから。」
「うん。」
「まふゆが苦しい時、泣いちゃう時、幸せな時も、まふゆの隣は全部私のにして。」
「うん。」
どんな魔法よりも深春の存在が一番大事。それ以上の物なんてこの世界には存在しない。
そう、本気で思ってしまった。
「それは?」
私が持っている、残り五箱が入った紙袋を深春が指差した。
「あ、これ。お世話になった人達の所にも配ろうと思って。」
「分かった。案内してあげる。でもあのマンションの前にも行くよ。平気?」
コクンと頷いた私に、深春が微笑んだ。
「着替えてくるから上がって待ってて。」
「ううん。ここで待ってるよ。風が気持ちいいから。」
「分かった。すぐ済ませるね。」
パタンと玄関の扉が閉まった。
今日は本当に風が気持ちいい。
もうすぐ六月になって、大嫌いなジメジメした季節になるけれど、それまでのほんのちょっとの好きな時間だ。
梅雨になる前にヘアカットをして良かったかもって思った。
まだ癖で何度も毛先を掬っては違和感を覚えるけれど、今の私には必要なことだったと思えた。