やわく、制服で隠して。
深春の家からあのマンションまでの道を歩くのは初めてだったけれど、あの日、深春に送っていくよと言ったパパに「近いから大丈夫。」って深春が言った言葉は本当で、思っていたよりもずっと近かった。
手を繋いで、あのマンションの前を通った。
少し通り過ぎて、隣のファミリー向けマンションの前で立ち止まって、二人で振り返った。
あの部屋に、彼はもう居ないと深春が言った。
それでもまだ強く残っている記憶が、はっきりと彼の表情や声、手の感触を思い出させる。
「大丈夫?」
「平気?」
繋いだ手のひらに力を込める。
あの時の深春の行動や声を思い出す。
あぁ、一つの“恋愛”が終わっても、私が悲しんでいるのは、私の中の一つの感情が彼によって奪われて、ほんの少し壊されたってことだけだ。
彼との時間が無くなったこと、一人の人間が自分の人生から消えたこと。
それらに対して、後悔も悲しみも無い。
確かに私の中の感情や少しの貞操は壊れてしまったかもしれない。
それでも、核の部分は奪われていないし壊れてもいない。
失った物が、深春じゃなくて良かったって思った。
はっきりと感じる深春の手の柔らかさ。
甘い匂い。私に向けられる笑顔。
あぁ。私、深春のことが本当に好きなんだ。
友達としてじゃない。友達以上に、それはきっと、“恋”と同じ感情で。
だからあんなに酷い目にあっても、深春が居るって、それだけでまた歩き出すことが出来るんだ。
彼との“事件”が世間に知られていたら、彼は今よりもっと騒がれて、私だってもっと大きな物を失くしていたはずだ。
もしもいつか深春へのこの気持ちも世間に知られたら、この事件のように私達の恋も糾弾されて、壊れてしまうのだろうか。
でも、もう、誤魔化せないくらい、私はきっと、深春が好きだ。
深春だけのもので居たいと思うし、深春もそうであって欲しい。
「行こっか。」
深春が私の手を引いて、マンションに入っていこうとした、その手を引き返した。
「深春。」
「ん?」
「好きだよ。」
「私もよ。」
深春はいつもの笑顔で微笑んで、今度こそ歩き出した。
ねぇ、深春。
きっと深春の気持ちは、私とは違う種類の物かもしれない。
それでも隣に居ていいかな。
深春に特別な人が出来るまで。
せめてそれまでは、深春の一番で居させて。
手を繋いで、あのマンションの前を通った。
少し通り過ぎて、隣のファミリー向けマンションの前で立ち止まって、二人で振り返った。
あの部屋に、彼はもう居ないと深春が言った。
それでもまだ強く残っている記憶が、はっきりと彼の表情や声、手の感触を思い出させる。
「大丈夫?」
「平気?」
繋いだ手のひらに力を込める。
あの時の深春の行動や声を思い出す。
あぁ、一つの“恋愛”が終わっても、私が悲しんでいるのは、私の中の一つの感情が彼によって奪われて、ほんの少し壊されたってことだけだ。
彼との時間が無くなったこと、一人の人間が自分の人生から消えたこと。
それらに対して、後悔も悲しみも無い。
確かに私の中の感情や少しの貞操は壊れてしまったかもしれない。
それでも、核の部分は奪われていないし壊れてもいない。
失った物が、深春じゃなくて良かったって思った。
はっきりと感じる深春の手の柔らかさ。
甘い匂い。私に向けられる笑顔。
あぁ。私、深春のことが本当に好きなんだ。
友達としてじゃない。友達以上に、それはきっと、“恋”と同じ感情で。
だからあんなに酷い目にあっても、深春が居るって、それだけでまた歩き出すことが出来るんだ。
彼との“事件”が世間に知られていたら、彼は今よりもっと騒がれて、私だってもっと大きな物を失くしていたはずだ。
もしもいつか深春へのこの気持ちも世間に知られたら、この事件のように私達の恋も糾弾されて、壊れてしまうのだろうか。
でも、もう、誤魔化せないくらい、私はきっと、深春が好きだ。
深春だけのもので居たいと思うし、深春もそうであって欲しい。
「行こっか。」
深春が私の手を引いて、マンションに入っていこうとした、その手を引き返した。
「深春。」
「ん?」
「好きだよ。」
「私もよ。」
深春はいつもの笑顔で微笑んで、今度こそ歩き出した。
ねぇ、深春。
きっと深春の気持ちは、私とは違う種類の物かもしれない。
それでも隣に居ていいかな。
深春に特別な人が出来るまで。
せめてそれまでは、深春の一番で居させて。