やわく、制服で隠して。
制服の下には。
「ただいま。」
帰宅してリビングに入ると、ママがソファに座ってテレビを見ていた。
振り返って私を見たけれど、何も言わないママは、最近ではそれが当たり前になってきていた。
私だって完全にあの日のことを乗り越えたわけじゃない。時間だってそんなに経っていないし、時々あの日のことが夢に出てくることもある。
だけど、家族の中で一番傷ついているのはママだった。
一番傷ついているんだと、ママはずっと態度で示している。
そんな目に遭ってしまうような、馬鹿なことをした私に。
一生懸命勉強をしていたと思ったら、その裏では大人を裏切るようなことをしていた私達に。
親として、女性として、大人として、失望や憤り。
ママは、娘としての一度の過ちも、許してはくれなかった。
「パパは?」
「残業。遅くなるって。」
「そう。」
「本当に残業なんだか。」
「やめて!」
ママは、あれ以来、疑心暗鬼に陥ることが多くなった。
家族が自分に隠れて裏で何をやっているかなんて分からない。
口では何とでも言えるのだと、あんなにママの気持ちを尊重してきたパパの言動すらも疑うようになった。
「あの時だってパパは部屋から出てこないママのこと責めたりしなかった。そんな風に言うのやめてよ。」
「何アンタが偉そうに言ってんのよ。誰のせい?ねぇ、誰のせいでこんな風になってんのよ!」
ヒステリックに叫んだママが、テーブルの上のテレビのリモコンを私に投げつけてきた。
私に当たりはしなかったけれど、フローリングの床に叩きつけられたリモコンは大きな音を立てて、裏の蓋が外れて電池が飛び出した。
私達家族みたいにバラバラになったリモコンを、私は黙って拾って、元の状態に戻した。
電源ボタンを押しながらテレビに向けたけれど、反応しない。
諦めてテレビの電源ボタンを直接押して、テレビを消した。
パチンと小さく音を鳴らしてテレビは消えた。
真っ黒になった画面に私と、ソファから立ち上がったママがぼんやり映っている。
ママはそのままリビングを出て、扉を乱暴に閉めた。
階段を上がる大きな音が聞こえる。
私は立ち上がって、壊れたリモコンをゴミ箱に捨てた。
ママは、こんな風に簡単に、心の中で私達のことを捨てたんだ。
もう戻らないって思っている。戻せなくてもいいって思っている。
私達はママにとって不用品になったんだ。
私の一度の過ちが。浅はかな考えが。
私が、家族を壊した。
食卓にしているダイニングテーブルの上に、ラップがかけられたおかずが置かれている。
冷蔵庫には同じ物がもう一つあって、ママが夜ご飯を作って置いていてくれたのかもしれない。
それが私とパパの分か、ママとパパの分なのかは分からないけれど。
もう一つの、誰の分か分からないおかずも冷蔵庫にしまった。
悲しくて悔しくて、どんなに周りから人が居なくなっても、壊れていく家族を見続けることは、何よりも苦しい。
それでも心の中で深春のことを思った。
何度も何度も深春の名前を呼んで、深春の声を思い出した。
そうしていないと、私はもう、駄目だった。
神様。深春だけは。深春だけは私から奪わないで。
その代償ならもういくらでも奪ってくれていい。
だから深春だけは私から奪わないで。
それだけしかもう、生きていく希望も幸せも無い。
そう思っていないと心を保てない。
おまじないのように繰り返す。
呪いのように心に深春を置いて、そう願い続けた。
帰宅してリビングに入ると、ママがソファに座ってテレビを見ていた。
振り返って私を見たけれど、何も言わないママは、最近ではそれが当たり前になってきていた。
私だって完全にあの日のことを乗り越えたわけじゃない。時間だってそんなに経っていないし、時々あの日のことが夢に出てくることもある。
だけど、家族の中で一番傷ついているのはママだった。
一番傷ついているんだと、ママはずっと態度で示している。
そんな目に遭ってしまうような、馬鹿なことをした私に。
一生懸命勉強をしていたと思ったら、その裏では大人を裏切るようなことをしていた私達に。
親として、女性として、大人として、失望や憤り。
ママは、娘としての一度の過ちも、許してはくれなかった。
「パパは?」
「残業。遅くなるって。」
「そう。」
「本当に残業なんだか。」
「やめて!」
ママは、あれ以来、疑心暗鬼に陥ることが多くなった。
家族が自分に隠れて裏で何をやっているかなんて分からない。
口では何とでも言えるのだと、あんなにママの気持ちを尊重してきたパパの言動すらも疑うようになった。
「あの時だってパパは部屋から出てこないママのこと責めたりしなかった。そんな風に言うのやめてよ。」
「何アンタが偉そうに言ってんのよ。誰のせい?ねぇ、誰のせいでこんな風になってんのよ!」
ヒステリックに叫んだママが、テーブルの上のテレビのリモコンを私に投げつけてきた。
私に当たりはしなかったけれど、フローリングの床に叩きつけられたリモコンは大きな音を立てて、裏の蓋が外れて電池が飛び出した。
私達家族みたいにバラバラになったリモコンを、私は黙って拾って、元の状態に戻した。
電源ボタンを押しながらテレビに向けたけれど、反応しない。
諦めてテレビの電源ボタンを直接押して、テレビを消した。
パチンと小さく音を鳴らしてテレビは消えた。
真っ黒になった画面に私と、ソファから立ち上がったママがぼんやり映っている。
ママはそのままリビングを出て、扉を乱暴に閉めた。
階段を上がる大きな音が聞こえる。
私は立ち上がって、壊れたリモコンをゴミ箱に捨てた。
ママは、こんな風に簡単に、心の中で私達のことを捨てたんだ。
もう戻らないって思っている。戻せなくてもいいって思っている。
私達はママにとって不用品になったんだ。
私の一度の過ちが。浅はかな考えが。
私が、家族を壊した。
食卓にしているダイニングテーブルの上に、ラップがかけられたおかずが置かれている。
冷蔵庫には同じ物がもう一つあって、ママが夜ご飯を作って置いていてくれたのかもしれない。
それが私とパパの分か、ママとパパの分なのかは分からないけれど。
もう一つの、誰の分か分からないおかずも冷蔵庫にしまった。
悲しくて悔しくて、どんなに周りから人が居なくなっても、壊れていく家族を見続けることは、何よりも苦しい。
それでも心の中で深春のことを思った。
何度も何度も深春の名前を呼んで、深春の声を思い出した。
そうしていないと、私はもう、駄目だった。
神様。深春だけは。深春だけは私から奪わないで。
その代償ならもういくらでも奪ってくれていい。
だから深春だけは私から奪わないで。
それだけしかもう、生きていく希望も幸せも無い。
そう思っていないと心を保てない。
おまじないのように繰り返す。
呪いのように心に深春を置いて、そう願い続けた。