やわく、制服で隠して。

「いたッ…。」

ぼんやり歩いていたら、誰かとぶつかってしまった。

「ごめんなさっ…」

「まふゆ。」

「アミ…。」

ぶつかった相手はアミだった。不機嫌そうな表情を貼り付けて、アミは大袈裟に肩を払って歩いていった。

あの子も要らなくなった子。次はあの子かも。
校門の前ですれ違っていく人達。頭の中に次々と流れては消えていくクラスメイト達の顔。

一日一日、みんなの中から私が消えていく。
友達なんてくだらないと思っていた。
中学の時の自分が蒔いた種が、今更になって育って、私の将来を刈っていく。

何をしたくて私はこの学校に来たんだろう。
ただあの男に出会う為だけに必死になって受験勉強をしたのかな。

私は…。

「まふゆ。おはよ。」

ぽん、と肩を叩かれて振り返った。

「深春。」

追い風に吹かれた髪の毛が流されている。陽射しに眩しそうな顔をした深春。

私がここに居たい理由は、たった一つだけ。

「まふゆ、一時間目サボろう。」

「え？」

「ほら。今日って職員会議が一時間目にあるから全校自習って言ってたじゃん。」

「そうだけど。でも課題出てるよ。放課後、居残りになっちゃうよ。」

「それでもいいから。お願い。」

深春は少し考えてから、笑った。
その顔を見ていると泣きそうになってくる。

「分かった。保健室いこっか。多分、保健の先生も会議出るだろうから。」

下足箱で靴を履き替えて、真っ直ぐに保健室に向かった。
保健室のドアを開けると、薬品とかの保健室特有の匂いがした。

ちょうど先生が鞄と資料を抱えて保健室を出ようとしていた。

「あら。どうしたの。先生、これから会議で…。」

「一時間目が終わるまで休んでちゃ駄目ですか？この子、貧血持ちで…さっきフラついちゃって。心配だから付き添っていたいんです。」

深春がペラペラと喋る嘘を、私は具合悪そうに俯いて黙って聞いていた。

「そう。クラスは？」

「一年三組です。」

「分かったわ。担任の先生には伝えておくわね。あなたは大丈夫？」

「はい…。横になっていれば治るので…。」

先生が保健室を出ていって、完全に後ろ姿が見えなくなってから、深春と私はハイタッチをした。