やわく、制服で隠して。
「まふゆー!」

教室で担任が挨拶をして、クラスメイト達も自己紹介をしたり、明日からのスケジュールの説明を受けたりして、入学式の全部が終わった。

隣のクラスの生徒達の声がガヤガヤと廊下に鳴り出して、そんな中から私を呼ぶ声が聞こえた。

同じ中学の、同じグループだったアミ。
五人グループ内で、高校も一緒なのはアミだけだ。

「どうしたの?」

教室の後ろのドアの方から私を呼ぶアミに近寄った。

「高校入った瞬間そっけないじゃん。廊下で会っても話もしないし。」

「ごめん。ほら、新生活だし。緊張してたんだよ。」

「緊張?まふゆらしくない。」

「うるせー。」

現に言葉を交わせば中学の頃と何も変わらない。
この子達が居なかったら、中学生の私は一人ぼっちだったと思うし、感謝もしている。

だけどそれでも、やっぱり私は“中学生の私”を好きにはなれない。
そういう生活を送ってきた、ただの私の自業自得だ。

「トーク見てないの?」

「トーク?」

アミが私の目の前でスマホを振った。
ポケットから自分のスマホを取り出して、タップする。トークアプリのアイコンの横に、通知を知らせる二桁の数字が付いている。

アプリを起動しなくても、グループトークの通知だって分かった。
五人グループだから、放っておくとすぐにトーク数がいっぱいになっていく。

アプリのアイコンをタップして、案の定、今も数が増え続けているグループトークを開く。

グループ内での仕切り役だったカホからの誘い。
皆の入学式が終わったら、制服のまま中学に遊びに行こうと言っている。

「アミ、行くの?」

「まぁ、このまま帰っても別にすること無いしね。カホ、高校の制服姿見せたいんでしょ。」

想像がつく、って顔で、アミが笑った。
カホは私立の女子校に入学した。私達が通える範囲の高校の中では、断トツで制服が可愛い。
その制服が着たいからという理由で入学する子も多くて、カホもそうだった。

「まふゆも行くでしょ?」

「いや。私はパス。」

「えー、何で?行こうよ。高校離れちゃったからあんまり集まれなくなると思うよ。」

「一生会えないってわけじゃないでしょ。今日はちょっと…、環境に慣れなくて疲れちゃったし。」

アミがつまらなそうに口を尖らせる。
行っても良かったけれど、私は別に制服を披露しに行くほど、母校の先生達に愛着があるわけでもないし、懐かしむほどの時間も経っていない。

それに…。
一番の理由は深春だ。
今も、約束をしたわけじゃないけれど、私達の話が終わるのを、椅子に座ったまま待っている。
半分以上のクラスメイトが教室から出て行ったのに、深春がそうしないのは、私を待っているからだって、何故かハッキリと分かった。
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