やわく、制服で隠して。
バタバタとベッドまで小走りで向かって、ガバッと寝転んだ。
保健室のベッドは柔らかくない。
スチールパイプのベッドが軋んで痛かったけれど、気持ちがいい。

窓が少し開いていて、白いカーテンが風で揺れている。
白。保健室は、ほとんど全部が白。
その中で、深春の赤くて小さいくちびると、深春の胸元のリボンだけが際立って見えた。

一滴の赤い血液みたいに、ぽとんと落とされたそのシミがじわじわと私の中に広がっていく。
私の中はいつか深春だけになる。
そうなりたいって思った。

「一時間、二人だけだね。」

深春が寝転んだまま言った。
私も白い天井を見つめていった。

「でも誰か来るかもよ。」

「来ないよ。みんな自習大好きだもん。」

「でも全校生徒の中から一人くらいは。仮病じゃない人。」

深春がクスクス笑っている。
私は天井の黒いドット模様を数えていたけれど、深春のほうに寝返りをうった。

「一人くらいいいじゃん。そっちのベッドに寝ててもらってさ、私達はパーテーションのこっち側に二人で居ようよ。」

保健室のベッドは全部で三台。一台ずつの間に白いパーテーションが立てられている。
一台分ずつが小さい個室みたいになる。
即席の秘密基地だ。

深春が起き上がって、膝をペタンとベッドにつけて座ったから、私も同じ体勢になった。

「もうほとんど消えたね。」

「うん。」

深春が首筋に触れる。
窓から流れてくる風があんまり気持ちいいから、私は眠たくなってきていた。
深春の指の感触も心地よくて、猫になった気分になる。

「まだ、巻けない?」

「んー?」

「リボン。」

「あぁ…うん。まだ、思い出しちゃって。」

「そう…。」

深春の指が首からスーッと下に移動して、セーラー服のファスナーをつまんで、ゆっくりゆっくり、下ろしていく。

それを当たり前みたいに私は受け入れた。
ジ、ジ、と下されていくファスナーに呼応するみたいに、トクン、トクンと心臓が鳴った。
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