やわく、制服で隠して。
「ほんとに行かないから安心して。」

言いながら深春は映画のチケットを縦に二回割いて、細い三本の紙切れが出来上がった。

「ほら。」

「先輩、可哀想。」

「じゃあ行こうか?」

「嘘。」

深春は三本の、ただの紙切れになってしまった映画のチケットを丸めて、椅子から立ち上がって、ゴミ箱に向かって投げた。

前から三、廊下側からも三列目の席からの投球は、綺麗な放物線を描いて、ゴミ箱のフチに当たって落ちた。

深春はお腹を抱えて笑った。
こんなに笑う深春を初めて見て、私も笑った。

「あーあ。入ると思ったのにな。」

「あんな軽い物、あそこまで飛ばせたんだから凄いよ。」

深春は、そう言った私を見つめて、口角を上げた。

「そう。軽いんだよ。」

「え?」

「まふゆ以外の想いは全部。私にとっては軽い。だからまふゆは何も悩まないで。」

「そんなこと言ったら先輩が可哀想だよ。本気かもしれないじゃん。」

「そうかもしれないけど、私にはまふゆだけでいいってこと。まふゆが悲しまないでいられるなら、他はどうでもいい。最低な人間だって言われたって、まふゆが解ってくれていたら十分。」

「うん。私もだよ。」

深春が机の下から私の足に自分の足を絡ませてきた。
深春のふくらはぎは冷たかった。春に感じた指先の温度と同じ。
誰にも見られないように、陰で行われる行為はどれも、私をおかしくさせていく。

「まふゆが髪の毛を切った想いと同じくらい。私の気持ちも重いからね。」

「うん。」

深春が好き。世界で一番。
深春の為に生きる。これからはずっと。

ずっと。ずっと、ずっと。
何年先もずっと。
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