やわく、制服で隠して。
「ごめん。実は仲良くなった子が居てさ。ちょっと話もしたいし。カホに謝っといて。次は絶対行くから。」

「カホ達、もうコンビニの前で待ってるって。」

私達が通っていた中学校の通学路の途中に、コンビニチェーン店がある。
何をするわけでもなく、そのコンビニの駐車場でダラダラと喋るのが定番だった。
コンビニの店員さんに注意されたことも、何度かあった。

「ごめん。友達が待ってるから。もう行くね。」

「友達?」

アミが不満そうな目で私を見た。責めるような、裏切り者を見るような目だ。

「今まで他の友達の話なんてしたことなかったじゃん。それに、だったら優先すべき“友達”は、私達じゃないの?」

アミにそのことを責められるのは、正直意外だった。

今朝の私がそっけないってアミは言ったけれど、アミだって廊下ですれ違っても絡んでこようとはしなかったし、グループを抜けたいって思ってるのは、アミも同じだと思っていた。

アミは、カホに対してずっと従順だった。
カホの言動を誰よりも優先していたし、絶対に嫌だって言わない。

カホは他校や大人の“友達”も多いし、美人で発言力もある。
中学校内で誰よりも目立っていたし、アミはそんなカホのことが怖いんだと思っていたけれど、本当は違うのかもしれない。

本当にカホのことを尊敬して、その場所に居られる自分のことも好きなんだろう。

だとしたら私には、それは“尊敬”なんかじゃなくて、崇め、讃えているように見える。
カホを神様か何かだと思っているみたいだった。

「アミ…。私達、もう中学生じゃないんだよ。環境が変わったら付き合う友達だって多少は変わっていくものだし。」

「何、急に優等生ぶってんの。」

鼻で笑うような言い方をしたアミに、不思議と気持ちは動かなかった。

今の私は、とにかく一秒でも早く深春の所に戻りたかった。

「じゃあいいよ。自分でカホに言うから。」

「…何て?」

「別に、アミには関係ない。」

アミの表情がサッと不安げに変わった。
アミが悪いことをしたわけじゃないんだから、脅える必要なんて無いのに。

「…謝るだけだよ。今度埋め合わせするから。じゃあね。」

返事を待たないで、アミに背中を向けた。
深春の席まで早歩きで戻って、「待ってて」って約束したわけでもないけれど、ごめんねって私は謝った。

深春は小さく首を横に振って、「大丈夫なの?」って、ドアのほうをチラッと見て言った。

「大丈夫だよ。中学の同級生。」

私はアミがまだ立っているかもしれないドアのほうは、もう見なかった。
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