やわく、制服で隠して。
「一度の間違いも許されないの?私は悪いことをした。それは認めるよ。でも私のことが大事なら、それを諭して欲しかった。ちゃんと正しいほうに戻して欲しかった。たった一度の間違いで完全に愛情も無くなるのなら、ママが本当に大事だったのは家族なんかじゃない!自分のことだけが大事だったんだよ!」

「何言ってんのよアンタは!」

ママが掴みかかってくる。床に倒された体を羽交締めにしてくる。

こんなの本当のママじゃないって、悪い何かが取り憑いておかしくさせてるんだって、そう言われたほうが救われるのに。

「だってそうじゃない!今まで私にかけた時間を無駄にされたから。裏切られたことがどうしても許せなかったんでしょ。自分のことが大事だから私の失敗を許せないんでしょ。自分自身とか世間体をママは守りたかっただけよ!」

「アンタに…!アンタに何が分かるのよ!裏切られた親の気持ちが!今までどれだけアンタのことを…!」

「分かんないよ!分かるわけないじゃん親の気持ちなんて!私は親になったことなんてない!私は子供で…!」

あぁ、そうだ。
私はやっぱりズルい。ママの言う通りだ。

早く大人になりたかった。私と深春が大人だったら今だって二人だけで、幸せな時間を過ごせていたのに。

どんなに自分が子供でいることを憎んでいたって、今、私は都合よく“子供であること”を盾にしようとした。

本当はママの気持ちだって解りたかったのに。
親の気持ちは理解できなくても、一人の人間として、ママの気持ちを解りたかった。

だけどもう、ママも私も止まれなかった。
どうして愛してくれないの、どうして許してくれないのと叫んでも、ママを許してあげられなかった私も同罪だった。

「ママ…。ごめんなさい。離して…お願い。」

我慢していた涙が流れ出した。
仰向けになっているから涙は目から流れて、頬骨を伝って首を濡らしていく。

ママは掴んでいた私のジャージを離して立ち上がった。
バンッと、ママが殴ったダイニングテーブルの天板が大きな音を立てた。

ゆっくりと体を起こす。
目がジンジンする。涙でママがぼやけて見えた。

「ママ…。」

鼻を啜りながらママを呼ぶ私を、腕を組んで立ったまま、睨んでいる。
私とママの間にはもう、親子の関係は存在していないように感じた。

「ママ、私…。私と深春、付き合ってるの…。」

シン、としていて、ベランダの窓の向こうから聞こえてくる車の走行音とか、どこかの犬の吠える声以外、本当に静かだった。
生唾を飲み込む音でさえ、ママの神経を逆撫でしそうで怖かった。

「は?」

この世に存在しない言葉でも聞いたみたいな、本当に理解出来ないって感情がよく伝わるような声。
私を睨みつけたまま、固まっている。
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