やわく、制服で隠して。
「行こっか。」

深春に行って、私は自分の席に戻って、鞄を取った。
深春は返事をしなかったけれど、静かについて来ていることは分かった。

校門を出る時に、散っている桜の花びらを一枚、深春が拾って、手のひらに乗せた。

「本当だ。」

「ん?」

「まふゆのチークのほうが、もう少しだけ赤みがかってるね。」

「ローズだからね。」

深春が小さく頬笑んだ。
こうやって見ると、微笑む深春は、薄く色付く桜の花びらみたいだ。

「今の深春、春って感じするよ。」

「そう?でも私、春ってあんまり好きじゃない。」

「何で?」

「アレルギーだから。」

「…あぁ。私達の名前、植物だらけなのにね。」

目を見合わせて、深春がまた微笑んだから、私も笑った。
深春が鞄のポケットから生徒手帳を取り出して、拾った桜の花びらを挟んだ。

私も、桜の花びらを一枚拾って、同じように生徒手帳に挟んだ。

深春がそうした時に、そのページ数が“七”だったことを、私は見ていた。
だから私は二十一ページに挟んだ。
私と、深春の出席番号。絶対に忘れない数字。

校門を出て、お互いの家が何処かなんて話していないのに、私達は隣り合って適当に歩き出した。

春の風に、深春のロングヘアが流されている。

「まふゆは、冬生まれなの?」

「誕生日、もう終わったよ。」

「…春生まれなの?」

「うん。四月生まれ。」

「名前と真逆なのも、同じね。私は二月生まれなの。」

あともう少し。私が一日でも早く生まれていたら、深春が遅く生まれていたら、私達は今日、出会っていない。

タイミングギリギリの誕生日は、きっと運命だって思ってしまった。
運命なんて陳腐な言葉、多分、私は初めて感じたかもしれない。

「ずっと知っていたみたい。」

少し先を歩く私の背中のほうから、深春の声がして振り向いた。

「私達、今日が初めてなんて不思議ね。」

「そう、かな?」

「まふゆは、懐かしい感じがする。」

「そっか。」

同じセーラー服を着た、同じ年齢の女の子。
なのに深春は、大人びて見えた。
顔立ちなのか、口調か、深春が生きてきた私の知らない時間が、深春をそうさせたのか。

追い風が吹いた。
さっきは横に流されていた深春のロングヘアが、追い風に乗ってふわっと舞った。

「深春。」

少しだけ私より後ろに居た深春に駆け寄って、深春の右手を取った。

風に舞う髪の毛を、左手で横に掻き分けて、深春が私の目を真っ直ぐに見た。
深春の、色素の薄い茶色がかった瞳に、私が映っているのが僅かに見える。
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