やわく、制服で隠して。
ぽん、とパパが私の肩に触れた。
「怪我はしてないか?」
「…うん。」
ママの荒れる姿がフラッシュバックのように脳裏に浮かんでは消えていく。
パッとフィルムを切り替えていくみたいに、記憶の映像を見せられているみたいに、ママの一瞬一瞬が流れて消えていく。
「三日後、棗さんのお宅に謝罪に行くけど、まふゆも行くか?」
「三日後?明日は…?」
「さっきな、深春ちゃんのお父さんから電話を頂いたんだよ。無事にご自宅に戻られたって。その後に、担任の先生からも連絡を頂いてね…。野外学習はあと二日間の予定だろう?その期間は自宅謹慎にしてくださいって。三日後はちょうど土曜日でパパも休みだから、その日に謝罪に伺うことになったんだ。」
「自宅謹慎。」
「そうだよ。まふゆ、守れるね?」
「深春にッ…。」
深春に会いたい、その言葉が言えなかった。
パパとこれだけ話をしても、頭で解っていても心が言うことを聞かない。
ずっと二人きりで居られると思ったのに。
でも野外学習にちゃんと言ってれば、今も“普通”に深春に会えていたんだ。
「…分かった。」
私は立ち上がって、勉強机に置いたままのメイクボックスから、高校入学のお祝いにママに買ってもらったチークを取り出した。
入学式の日、深春が褒めてくれたローズ色。
元カレとのことがあってから、ママのことを思い出すのが怖くて塗れなくなった。
いつか塗れる日が来るまで、そう信じて仕舞っていたけれど。
そんな日はきっともう来ない。
「もう、無理だよね。」
チークを両手で包んで、もう一度パパの隣に座った。
パパは小さく首を横に振って、何も言わなかった。
それが「無理じゃない」と否定してくれているのか、私の言葉の肯定かは分からない。
もうこの家に、私は居ないほうがいいのかもしれない。
ママを苦しめるだけの存在。パパだってずっとしんどい思いをしているだろう。
私が居なくなれば。
そう思い始めたらもう、止められなかった。
苦しいけれど、怖いけれど、馬鹿な考えかもしれないけれど、そうしてあげることが家族にとっての幸せなのかもしれない。
「怪我はしてないか?」
「…うん。」
ママの荒れる姿がフラッシュバックのように脳裏に浮かんでは消えていく。
パッとフィルムを切り替えていくみたいに、記憶の映像を見せられているみたいに、ママの一瞬一瞬が流れて消えていく。
「三日後、棗さんのお宅に謝罪に行くけど、まふゆも行くか?」
「三日後?明日は…?」
「さっきな、深春ちゃんのお父さんから電話を頂いたんだよ。無事にご自宅に戻られたって。その後に、担任の先生からも連絡を頂いてね…。野外学習はあと二日間の予定だろう?その期間は自宅謹慎にしてくださいって。三日後はちょうど土曜日でパパも休みだから、その日に謝罪に伺うことになったんだ。」
「自宅謹慎。」
「そうだよ。まふゆ、守れるね?」
「深春にッ…。」
深春に会いたい、その言葉が言えなかった。
パパとこれだけ話をしても、頭で解っていても心が言うことを聞かない。
ずっと二人きりで居られると思ったのに。
でも野外学習にちゃんと言ってれば、今も“普通”に深春に会えていたんだ。
「…分かった。」
私は立ち上がって、勉強机に置いたままのメイクボックスから、高校入学のお祝いにママに買ってもらったチークを取り出した。
入学式の日、深春が褒めてくれたローズ色。
元カレとのことがあってから、ママのことを思い出すのが怖くて塗れなくなった。
いつか塗れる日が来るまで、そう信じて仕舞っていたけれど。
そんな日はきっともう来ない。
「もう、無理だよね。」
チークを両手で包んで、もう一度パパの隣に座った。
パパは小さく首を横に振って、何も言わなかった。
それが「無理じゃない」と否定してくれているのか、私の言葉の肯定かは分からない。
もうこの家に、私は居ないほうがいいのかもしれない。
ママを苦しめるだけの存在。パパだってずっとしんどい思いをしているだろう。
私が居なくなれば。
そう思い始めたらもう、止められなかった。
苦しいけれど、怖いけれど、馬鹿な考えかもしれないけれど、そうしてあげることが家族にとっての幸せなのかもしれない。