やわく、制服で隠して。
七時になって、玄関のほうでバタバタと足音、ドアが開いて、閉まる音が小さく聞こえた。

パパが出勤したんだと思う。
せめていってらっしゃいって言えば良かった。

ベッドから出て、髪の毛を櫛で軽くとかす。
髪の毛を短くしてから、今は顎より少し長いくらいに伸びたけれど、肩にはまだ付かない。

暗めのブラウンに染め直していたカラーは、元々がハイトーンだったから色が抜けて、また明るめのブラウンになってきた。

深春は私の新しいヘアスタイルを好きだって言った。
だからまたカラーだけでも暗めに戻したいけれど、今はあまりそんな気力も湧かなかった。

昨日と同じようにゆっくりと部屋を出て、リビングに向かう。
ママが居たらどうしようと思ったけれど、リビングの電気は消されていて、カーテンも閉められていたから、リビングは夜みたいに暗かった。

カーテンの遮光性って凄いなぁなんて、どうでもいいことを思った。

お腹がグルグルと鳴った。
昨日の夜は、まともに食べないで部屋に篭っていたから流石にお腹が空いた。
こんな時でも日常的にお腹は空くし、トイレにも行きたくなるし、生理現象だから仕方の無いことだけど、情緒が無いよなぁなんて思ってしまう。

冷蔵庫を開けたけどすぐに食べられそうな物は無くて、戸棚を見たらカップ焼きそばがあったから、それを食べる為にお湯を沸かした。

電気ポットの中の水がシューッと音を立てて、ぽこぽこと小さな泡を作りながらお湯になっていく。
ただそれをジッと見ているだけなのに、心が落ち着いてくるから不思議だ。

お湯が沸いて、電気ポットがカチッと止まって、湯沸かし中のランプが消えた。

カップ焼きそばにお湯を注いで、フタの上に袋に入ったソースを置いて、三分待つ。

ダイニングテーブルの上に、病院で処方される薬が入ったような袋が置いてあるのが目に入った。
三袋。乱雑に置かれていて、中身が少し飛び出している。

袋に書かれた名前はママ。
夕食後とか、睡眠前とか、朝・夕と印字された上に丸が付けられている。

袋の中には薬の説明書も入っていて、どれも聞いたことの無い薬ばっかりだった。
不安時とか、睡眠の質を高めるとか、色々と書いてある。

それがどういう時に処方される薬なのかは私にも解った。
ママをそうさせたのは自分なのか。
気付かなかったけれどずっとそうだったのかは分からない。

でも、ママもずっと苦しかったんだね。
それなのに私がもっと辛くさせていたんだね。
心の中で何度謝っても、ママには届かない。

お湯を入れたカップ焼きそばはどんどん伸びていく。
ハッと思い出してお湯を切った時には麺がゴワゴワになっていて、もう全部に対して泣き出したかった。
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