やわく、制服で隠して。
許されたかった恋
「ごめんなさい。びっくりさせてしまったわね。」
「いえ…。」
「今日、お母さんは?」
「すみません、ちょっと体調が良くないみたいで…。本当は一緒に来なきゃいけなかったのに。」
「違うのよ。責めてるわけじゃないの。」
深春のお母さんは私に近づいて、これ使ってねと、タオルを差し出してくれた。
受け取ったタオルで手を拭いた。
「ねぇ、まふゆちゃんは、お母さん似よね?」
「え?」
「あぁ、ごめんなさい。お父さんと似ていないって意味じゃなくて、どちらかって言うと、お母さん似よね?」
「…確かに母に似てるって言われることのほうが多いです。」
「失礼だけど、ご年齢は?」
「四十です。私は二十四歳の時の子どもです。」
「そう。あのね、変なこと聞くけど…。」
深春のお母さんは今から言うことを躊躇っているのか、一呼吸置いて、私の目をしっかり見てから、今までの表情とはまったく別人みたいに、ちょっと困ったような顔で言った。
「まふゆちゃんのお母さんの旧姓って、知ってる?」
一瞬、質問の意図が分からずに、私は軽く首を傾げてしまったかもしれない。
それでも曖昧な思考のまま、ママの旧姓を口にした。
深春のお母さんはもっと困ったような、いよいよ泣き出してしまいそうな顔をして、これ、と一枚の紙を私に差し出した。
「何ですか、これ。」
二枚折りにされた白い紙をめくると、聞いたことの無い女の人の名前だけが書かれている。
「おばさんの旧姓と名前よ。お母さんに渡してくれるかな?」
「これを?どうしてですか?」
「お願い、まふゆちゃん。もし、今回のことでまふゆちゃんが私達家族に引け目を感じているのなら、まふゆちゃんはその紙をお母さんに渡す。取り引きしましょう。」
さっきまで泣きそうな顔をしていたのに、深春のお母さんは少女みたいにニッと笑った。
「脅し…。」
「物騒なこと言うのね。」
つい口から漏れてしまった言葉にすみませんと笑ったけれど、気にしていないようだった。
「まふゆ?」
ひょこっと深春が顔を出して、私を呼んだ。
「大丈夫?体調悪い?母さん、居たの。」
「深春、ごめんね。大丈夫だよ。」
「母さんと話してたの?」
「うん。ちょっとね。」
何となく、深春には言わないほうがいいような気がしてはぐらかした。
目があった深春のお母さんは、ゆっくりと瞬きをした。
それが私には、黙っていたことへの肯定のように思えた。
「いえ…。」
「今日、お母さんは?」
「すみません、ちょっと体調が良くないみたいで…。本当は一緒に来なきゃいけなかったのに。」
「違うのよ。責めてるわけじゃないの。」
深春のお母さんは私に近づいて、これ使ってねと、タオルを差し出してくれた。
受け取ったタオルで手を拭いた。
「ねぇ、まふゆちゃんは、お母さん似よね?」
「え?」
「あぁ、ごめんなさい。お父さんと似ていないって意味じゃなくて、どちらかって言うと、お母さん似よね?」
「…確かに母に似てるって言われることのほうが多いです。」
「失礼だけど、ご年齢は?」
「四十です。私は二十四歳の時の子どもです。」
「そう。あのね、変なこと聞くけど…。」
深春のお母さんは今から言うことを躊躇っているのか、一呼吸置いて、私の目をしっかり見てから、今までの表情とはまったく別人みたいに、ちょっと困ったような顔で言った。
「まふゆちゃんのお母さんの旧姓って、知ってる?」
一瞬、質問の意図が分からずに、私は軽く首を傾げてしまったかもしれない。
それでも曖昧な思考のまま、ママの旧姓を口にした。
深春のお母さんはもっと困ったような、いよいよ泣き出してしまいそうな顔をして、これ、と一枚の紙を私に差し出した。
「何ですか、これ。」
二枚折りにされた白い紙をめくると、聞いたことの無い女の人の名前だけが書かれている。
「おばさんの旧姓と名前よ。お母さんに渡してくれるかな?」
「これを?どうしてですか?」
「お願い、まふゆちゃん。もし、今回のことでまふゆちゃんが私達家族に引け目を感じているのなら、まふゆちゃんはその紙をお母さんに渡す。取り引きしましょう。」
さっきまで泣きそうな顔をしていたのに、深春のお母さんは少女みたいにニッと笑った。
「脅し…。」
「物騒なこと言うのね。」
つい口から漏れてしまった言葉にすみませんと笑ったけれど、気にしていないようだった。
「まふゆ?」
ひょこっと深春が顔を出して、私を呼んだ。
「大丈夫?体調悪い?母さん、居たの。」
「深春、ごめんね。大丈夫だよ。」
「母さんと話してたの?」
「うん。ちょっとね。」
何となく、深春には言わないほうがいいような気がしてはぐらかした。
目があった深春のお母さんは、ゆっくりと瞬きをした。
それが私には、黙っていたことへの肯定のように思えた。