椅子こん!
4.プロポーズなんだから!

椅子のこと、私…………










「きみたちが、運んでくれたのか」

 礼を言うと、コップにくんだお水を渡してくれながら彼女は改めて真剣にこちらに向き直る。ツインテールがぽいんと揺れた。

「あのっ!」

「はい?」

「たたた、対物性愛者だったりしますか?」

彼女から出た意外な言葉。

「えっと」

「ああああの、椅子がですね、椅子が、あなたと一緒に、降って来て……」

椅子?
椅子がなぜ、空から?
 フライト途中、ヘリが何かにぶつかった気はしたが、まさか椅子だったんだろうか。

「俺は、椅子のことは知らん」

正直に告げると彼女はちょっとほっとしたように胸を撫で下ろした。

「よ、よかったぁ……ライバルかと思って、私……」

「ライバルって、なんの」


彼女はかああっと顔を赤くする。
そして自分で驚いていた。

「えっ、嘘、やだ……っ私、なんか、暑い…………っ」


「お姉ちゃんはね、椅子に一目惚れしたんだって」

彼女は目を潤ませて恥ずかしい~と首をぶんぶん横に振る。それから口を開閉し、またこちらを見た。

「私、放置されて強くなるって、言われてずっと放置された子だから……そのっ……好みの物とか、人外とかっ…………前から好きなんだけど、でも、あの椅子さんくらいの衝撃って、初めてかもしれない!!」

 隣の部屋に向かうと、その椅子を抱えてこちらに戻ってくる。木で出来た、ちょっと洒落た背もたれの椅子だ。

「今私に笑いかけた……っ!! 椅子さん」

椅子を見ては、目をそらし、また椅子を見ては、目をそらす。

「あ、あぁ、安心してくれ。その椅子は、少なくとも俺じゃない」


彼女は喜んだ。それから、告白をするかどうかに悩み始める。
彼女は『スキダ』を持っているのだろうか?


「あ、えっとそれで、あの、あなた、観察さんですよね?」

隠していても仕方がない。

「そうだ。この家や、他の家の写真を撮っている」

彼女は少し瞳を曇らせた。
そして途端に畳み掛けるように話し掛けてくる。

「やっぱり……どうして家の写真を真上から撮影してるんですか? この前もテレビで見ましたよ、うちの近くの山みたいな場所で芸能人がロケをして、焼き芋やさんに入って店主のことを笑ってるやつでしたが、その店の飾りが、この家みたいな配置で…………」

「テレビ? なんのことだ」

「……恋愛主義の出資者がやっているバラエティー番組。うちの中を笑われてるみたいな番組。毎日やるようになったから最近、たまにニュース観るくらいしかしてませんけど、あれが撮影出来るのって」

 「おい、おい、ちょっと待ってくれ、撮影するやつは、俺だけじゃない。観察さんは俺だけじゃないんだ……」

アッコのやつ……
聞いてないぞ。
『アッコ』に対する苛立ちが沸いてくるが、ひとまずはぐっと堪えた。
サングラスで目付きが鋭くなったのはわからないはずだ。
確かに観察さんは、恋愛主義者と繋がりを持っている。
テレビ局にも、局長絡みでスパイが居ると聞いているがそんなヤバイことに頭を突っ込めるわけがないのだ。彼らも見つかると、北国等に強制送還されてしまう為に全く口を割ろうとしないだろう。
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