椅子こん!
公認の仲!



「合体を望むことですよ」

市長が嘲笑うように言っていた。
合体────

「恋とは、合体を望むこと」

■■■■■■■■■■■■■■■■


 ヨウさんとロボットさんとの戦いが、終わった。
 着替えて、バラバラになった椅子さんを抱えた私は、モニターがある方角を見上げて叫んだ。
「ほら、合体したわ! これが、あなたにとっても『恋』って、気持ち、そうでしょ? もう、いい加減、間違いないわよね。私は……椅子さんが好き!」

「確かに……合体を望んだわね。どうして……そこまで……」

市長は動揺しているみたいだった。
やや疲れたような、窶れたような、力なさを声から感じる。

「人間を好きにさえなれば、人間に恋をすれば、より簡単に人権が保証されるのに……」

 私の答えは、決まって居た。
確かに蕀の道かもしれない。
人権が保証されるのは人間同士がほとんど。それでも、そんなことで好きになったわけじゃない。

「そんなの嫌です。私、椅子さんだから好きになった。喋らなくても動かなくても想いは変わらない、人間にはこんな気持ち、抱かなかった」

 人間は、怪物になっていつも襲って来て、動くのも喋るのをみるのも怖かった。
それに、私を、同じ人間とは思っていないのはあちらだ。すっかり、その区別が体に染み付いてしまっている。
 椅子さんは、私が悪魔でも、怪物だとしても、変わらずそばにいて、一緒に戦ってくれた。ただ単に、好きになったのが、椅子だっただけじゃないか。

「椅子さんが、椅子さんの魂を持って、家具という形をしている、それだけなんです。それを、人間の見た目じゃないからって否定出来ない!」

「そう……、そう……人間の見た目じゃなくても、ですか……」

マイクに一秒、鼻をすするような音が入る。
「あなたは、魂を見ていたのね──私にも、そんな人が、いれば良かった……私も、本当は、周りが当たり前の人のかたちで生まれ、当たり前に恋愛をしていく様が、羨ましかったのかもしれない……」

「市長?」

「──会長に、協力していましたが、考え直さねば、ならないようです」

 考え直すとは、と頭が疑問符でいっぱいになるときに、周りにかけてあった布がバサッと剥がされた。
 遠くのビルのモニターに、市長が映る。
巨大な、魚の頭が映る。

「これが、本来の私の頭です!」

44街がざわつく。道行く人たちが一斉にモニターを向いた。
魚。田中市長は、頭が、魚だった。

「かつては混乱を──避けるために、
公には、秘書を立てて、写真は秘書の写真を使い、誤魔化していました。
 私は生まれつきのしょうがいにより、頭がスキダのような魚そのものをしています……こんな私を、好きになってくれる人などいないと思って嘘をついたこともありました。申し訳、ありませんでした!」

「──魚の頭……」

「秘書」の女性が同時に頭を下げる。
めぐめぐは、面接、で魚頭の市長に、会うはずだったのか。

「改めて、44街の為に戦ってくれた、椅子さんと、ノハナさんを、正式に恋人と認定し、祝福致します!」

 あちこちでクラッカーが弾け、私と椅子さんへの祝福が上がる。人だけでなく、道行くスライムやゴブリンたちが、歓声を上げた。なんかよくわかんないけど、とにかく──
「やったぁ! これで、私も人権が保証されるんだ!! 椅子さんと幸せになるんだ!!」
私は飛び上がった。私が着替えたのに気付き、建物の脇から駆けつけたアサヒが私を抱き寄せる。

「おめでとう! これで、正式に恋人だな!」
「うん! ありがとう!」


恋人が出来てそれにより人権が保証されて、友達ができる。ただ悪魔として避けられていた頃とはえらい違いだ。
椅子さんを好きで居ていいんだ。
相手が人間じゃなくても良いんだ。
素直になっても。

 通行人の中に、ちらほら魚の頭を祝福する声も上がる。
「まぁ、魚人……!」

「魚の頭、隠さなくても良いのに!」

「頭が魚だなんてそれはそれで魅力的だ」

「魚人みたいなのがタイプのやつらも居たはずだ」
何人かがその場で電話をかけはじめ、市長舎に押し寄せる。

「市長ー!」「市長ー!」「魚頭を見せてくれー!」「すてきよー!」

 市長の頭が好きな人たちが、市長と結ばれる日も近いかもしれない。




「これから、どうする?」

 アサヒが聞いてくる。
私は、両腕に抱えた椅子さんを見て、「組み直さなくちゃ」と答える。
「でも、あの子のお見舞いもしたいな」
「そうか」
「先に病院に……」
言いかけて……ふと、気が緩んだ一瞬に頭痛が走った。

「どうした」

「……っ 頭が、魚……せん、せ……」

「え?」

頭が、痛い。怖い。景色が歪む。

「う、ぅ……ラブレターなんか、いらない……
戦わなくちゃ……」

魚頭の先生が追いかけてくる。
スキダ……スキダ……スキダ……

「おい! 大丈夫か! 」

アサヒが私の肩を掴む。

「───あ……うん……」

なにを、見たんだろう、なにかを、思いだし、そうだった気がする。
ラブレター……ラブレターが、あって、クリスタルが、あって……

頭をふって、私は言う。

「行こう、アサヒ」
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