椅子こん!
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「チッ、もう、付け入る隙はない、か……」
せつは、おばさんたちの影に隠れ、携帯電話を閉じた。最後に奇襲を仕掛けて、学会のことの恨みを晴らそうと思ったのだが、宝石の取り引きが無くなっても不満を訴えるのは一部の犯罪者のみになってしまった。
実際に逮捕者が出ているし、その渦中にせつの名前が上がってしまっている。ギョウザさんも、不正や麻薬所持が発覚し、局を追い出されるらしい。
「行こう、リカ」
リカ、と呼ばれた彼女の友人──長い髪の少女が呼び掛け、せつは首肯く。
「……私の10年間は……無駄だったのね」
「せつ」
リカはきつめに訴えた。
「もう、他人に成り代わるの、やめなよ。せつが傷つくだけだよ。ノハナちゃんは、罪もないのに、人権を犠牲にして、漫画とか小説とか作られてるんだよ。学会の……今となっては加害者家族の私たちが、また素材にしていたら……裁判の説得力もない。次は、せつも逮捕される」
せつは、ドキッとしながら、考えてみた。
(──私は、椅子を好きになることは出来ない。
物に恋愛感情など向けられない)
「せつ、他人が自身に合うと思い込むのはもうおしまい。ね? せつはね、椅子なんか好きにならなくていいの、
せつにぴったりなのは、せつ自身」
「うぅぅう……リカぁ!!」
せつも、本当はもう無理してまで、彼女に成り代わりたくなかった。
椅子を好きになりたくない。自分にぴったりと思い込んで居なければ、やりきれなかっただけで、全然ぴったりじゃないのはわかっていた。
「せつにも、きっとせつ自身のすばらしさがあるよ。ネオの、日暮おじさんだって、西さんだって、きっとそう言うよ、ねっ、もう他人を使うの、やめよう?」
「うん……」