椅子こん!
『44街は、スーパーシティ条令に基づき、全員恋愛を目指します!』
私の住む44街の朝が歪み始めたのは、ちょっとまえ。
あちこちで過疎化が進み労働力の確保が難しくなり始めていたことを受けて、超恋愛世代の生き残り…………私より、前の前の前の前の前の前の……とにかくちょっと昔の世代の大人が決めてしまったのが『市民は全員恋愛をしなくてはならない』というおぞましいものだった。
けれど、別に細かいチェックが入るとは聞いていないし、家でおとなしくしてればいいでしょと思うわけです。
恋愛といっても、やむを得ない場合なら二次元でも良いらしい。
だからその日も、扇風機の風に当たりながら「今日も暑いなあ」ってなりながら、部屋のなかでおとなしくしていた。
44街にある私の家。三重の鍵を開ける先にある私の部屋。
ごちゃごちゃと壊れたラジコンとか謎の人形とかが本棚に乗っかり、くたびれてあちこち継ぎ接ぎされたソファーがあって、はだか電球風のライトがついている落ち着く空間だ。
私はその真ん中あたりで、恋愛強制法とも取れるあの条令の新聞を読んだ。ポストに入ってたやつだ。無料だって!
「ふむふむ、『恋愛が出来ない者は、非生産的な存在である』……『甘えだ』『自分がかわいいだけである』……」
こいつはヤバい。
コラムが、完全に片寄った内容だ。
いやいや、自分がかわいいから好かれたいんじゃないんかーい!
と思うんだけど。ブーメランだわ……
新聞を眺めて、畳んで、私は思う。
呟いた。
「アホらし……」
そのとき、外で派手な爆発音がした。
あわててサンダルを履いて引き戸を開ける。
「なんか恋愛をしていない者を発見したらしいよ」
「うそ~」
「甘えが死んだだけか~」
ひどい……
拳を握りしめた。
けど、変だ。恋愛をしてないだけで、爆破されるなんて聞いた試しがないし、そんなことは、どこにも載ってなかったはず……
周囲がざわざわしている。
慌ててポケットに入れていた端末を操作してテレビをつけた。
チャンネルを地元に合わせて、数秒待つ…………少しして映る画面は、いくら局を変えても、普段の平和ボケした番組ばかりやっていたので、少なくとも今の時点でなにか放送されたりしないらしい。
(それとも、これからも?)
「とぉ!」
と突撃されてびっくりしながら横を見ると、同級生のスライムが居た。
「なんか恋愛してないと処刑されるって、噂だよー!」
「嘘……」
恋愛してないと処刑される?
「あの家の人、恋愛なんか絶対反対だって、言ってたんだって、
本屋に恋愛ものばかりスペースがあるのも、みんな馬鹿げてるって……その活動が、目障りだったみたい」
……なるほど。でも、確かに本屋には恋愛ものばっかり置いてあった。
それも、人と人とのものばかり。
私やあの家の人のような人は、孤独を感じるのもしょうがなかった。
スライムは困り顔で私を見た。
「私も、相手がまだなんだけど……決まった?」
「あー…………うんうん、決まった」
少し考えてから私はうなずいた。友達が恋人なんて駄目だよね!
兼用とか情報量多すぎちゃう。
「そうなんだ……」
スライムはぽよぽよしながらも、少し項垂れた。