椅子こん!
 私は昔から、好きって言葉が嫌いだ。
肉や野菜じゃないのよ?
人間なのよ?
食べ物みたいに選ばれて、好き嫌いで選別されて、あなたのために生きてるわけでもないのに、って、思うと、すごく惨めな気持ちになるからだ。

だから、好き、と言われることが多い告白シーンなんてやってられない!!
気持ち悪いわ!
 告白シーンがまず大嫌いな私は、恋愛への増大な憎しみを胸に、ごはんの支度をする。
小さなテーブルの置かれた比較的綺麗な台所。床のタイルは花が咲いたみたいに鮮やかだし、ついでに窓際に花瓶に入れた花も飾られているお洒落空間だった。

続いてごはんの支度!

たまねぎ、合挽き肉ミンチ、牛乳、たまご、パン粉、調味料!

1.まずたまねぎを細かく切ります。みじん切りって言うんだって。
皮を向いたら縦横に適当に包丁を動かして、とにかく、細かくすることしか考えてない。あとたまねぎは目がいたい。

2.肉とたまねぎを混ぜてボールに入れて、塩を小さじ、砂糖を大さじで1杯ずつ。
胡椒とかもいれて、卵を割っていれる。

3.牛乳をちょっと全体的に肉より少ないくらい入れてパン粉をつなぎに入れる。


これを捏ねる。

「うわー! ごはん出来る?」

 後ろから声がして、振り向くと小さな女の子が立っていた。
寝かせていたのにドアを開けてきたようだ。恋愛を拒絶して爆破された瓦礫の下から見つけた子で、頭に包帯を巻いている。というか私が巻いたんだけどね。

「お姉ちゃん、好き!」


私は頭をぐりぐりする。


「だーかーらー好きって、言われるの嫌いって、言ってるで、しょ? 私は食べ物や素材じゃないの!」

「ごめんなさいー」

まだ幼くて、3歳くらいだろうか。
耳元くらいまである髪は綺麗な水色をしている。宝石のような瞳が楽しそうに輝いていた。

 肉その他を、柔らかさが、ハムスターくらいになるまでしっかり捏ねる。
ちょっと水をスプーンくらいの量で混ぜながら捏ねるといいらしい。

やがて女の子が椅子におとなしく座っているのを見ながら、作業を再開した。
 えっと、そのあとは、伸びたハムスターくらいの俵がたにして、ちょっと薄めに伸ばして、火が通りやすいように真ん中に穴を開けて……
ブルーサファイアくらい色までこんがり焼き色をつける。


台所にだんだん良いにおいがしてきた。


「あの……さ……」

私はハンバーグを焼きながら改めて確認する。

「いいの? お家に、帰らなくて」


「いいのっ!」


彼女は頑なだった。


「国も、先生も、守ってはくれない。

恋愛をしない人が居ることが、非常識だから、助けてはくれない。だったら、にげるしかないもん」

こんな小さな子まで、恋愛への重圧を感じ取って自分なりに意思を持った行動をしてる。当たり前ではあるけど、なんだか、胸が痛かった。
非常識だから、なんて、どこで覚えてきたのだろう?

「そっか……ねえ、変なこと聞くけど。恋人とか、居ないの?」

ひっくり返して両面焼き色をつけながら私は聞いた。本当は、小さな子は就学適正年齢まで恋愛を待ってもらえるんだけど、なんとなく。

「これ」

彼女はワンピースのポケットから、赤いミニカーの玩具を取り出した。

「恋人」

真剣に目を輝かせるので、本当なのだろう。

「人間の恋愛ばかりは反対だけど、どう
してもっていうならって」


一旦火を止め、私は彼女の綺麗な髪を撫でた。

「偉ーい! それってすごいね! そっか!」


 人間ばかりに気をとられていたけど、恋愛はいろんなものにすることが出来る。



ハンバーグを食べている彼女を見ながら、私は考えた。彼女にはまだ猶予がある。
けれど、私がこのまま恋愛をしなければ……此処も 狙われてしまうだろう。そうなったら彼女はまた一人だ。


「よしっ!」

私は椅子に座ったまま、拳を握りしめた。横にある換気扇がカタカタ、とわずかに回る。
強制恋愛条例を、乗り越えるぞ!
 決意を固めている横で、女の子は大人しくフォークを駆使してハンバーグを食べている。おいしー! と喜んでいた。


それから……恋愛嫌いの人が狩られてる理由も、探らなきゃ。
そっとテーブルの下でポケットから出した端末をいじる。テレビが付き、ニュースが放映された。
 人気俳優が謎の死を遂げたという。
彼は恋愛ものには出ないことで有名で、恋愛強制にも反対する活動をしていた……

(消されたんだ…………恋愛条例を、拒絶したから……)
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