椅子こん!
「コリゴリ────!」
このままじゃ、スキダが怪物になってしまう……!
本能的に悟ったけれど、身体が恐怖で震えている。なぜいきなりこうなったかはわからないが、とにかく今は生き残らなくては。
コリゴリがなにかに憑かれたように私に手を伸ばしてくる。
どうしよう、どうしよう、そうだ、まずは、コリゴリから私の意識を引き剥がさないと……
そうすればスライムみたいな力は持たないはずだ。横目でテーブルを確認すると、夕飯の横にいつものティーセットが置いてあった。
私は震える手をどうにか動かして、それを確認した。
ちょうどポットの中に入れたままになっていたティーバッグがあったので、カップに注いだお湯と僅かな水で適当な紅茶を作り頭からかぶる。
「来ないで! やめて、コリゴリ、私に近付かないで」
生ぬるい紅茶が、頭から滴り落ちていく。
けれど今はそんなことに興味はない。
あとで風呂に入ろう。
砂糖を入れてないから、まだべたついてなくて良かったな。
「助けて──!」
叫んだ。
「私が悪いの……この人の気持ちを傷付けたから────! だけど、他人を好きになるなんて意味がわからない」
あまり強い言葉を使うと、やっと静かになったばかりのキムが反応してしまうかもしれない。とりあえず騒ぐ。これはなかなか名案な気がする。
確かに観察は続いている。続いているけれど、遠隔が主だ。盗聴に至っては、声があの人に届くだけだ。それ自体が、テレビに放映され、晒されるほどに異様な、おかしなことだけれど。
「コリゴリが暴れてる!」
これについては事実でしかない。
エリートであるコリゴリが、不祥事を起こしている。これが痕跡になるのはある意味では素晴らしいことだった。
倒す、かどうかすぐ考えることも出来る。でもコリゴリが気持ちを少しでも制御してくれさえすれば────もしかしたら少しくらい────
抱えたままの椅子さんが唸る。そして強い光に包まれて輝きだした。
────ガタッ!!!
────────ガタッ!!!!
────クラスターを発動。
コリゴリは鼻で笑った。
「ふんっ、この近辺はあのお方のクラスターが固めているんだから、他のクラスターが入る隙なんて────」
スキダ……スキダ……?スキダ?
足元に集まってくる小さなスキダが、口々に何かを言い合いながら戸惑い、ざわついているのを見て、コリゴリは急な出来事にあせる。
紅茶……紅茶……紅茶だ……
紅茶だ……
あらぁ! まぁ! たいへんねぇ!
外に居る誰かが、急にこちらを伺うことを言い始めた。
(そとのクラスターが、味方をしない?)
そもそもコリゴリが不法侵入していること自体が知られて都合が良いわけではない。紅茶をかぶったかどうかよりも観察屋にとってもこれは嫌な展開なのだろう。
「エッ? ジブンデッ……!! チガウノホォ!!! ワタシワルクナイノホォ!!! !!
シズカニシズカニシズカニシズカニシズカニシズカニイイイイイイ! シズカニイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
ワルクナイッ、ワタシワタシワルクナイ!!!」
コリゴリは近付かないでと言われたのに、逆に近付いて来る。
すごい剣幕だ。
だけどまだ、自省との間に揺らいでいる
。完全体ではこうはいかない。
きっとまだ人間に戻す方法が……
コリゴリの服のポケットから電話が鳴る。コリゴリはしばらく我を忘れていたが、ぼんやりした意識のままに、端末を手にする。
「── 撤収──しろ?」
コリゴリが目を見開く。
良かった、コリゴリが帰ってくれそうだ。私は胸を撫で下ろし────て居たのだが、コリゴリがわかりました、と通話を切ってもなお、場を動こうとしないことに気が付いた。
「社長は……私にまだ、期待してくださっている……」
「何を言っているの?」
「退けと身を案じてくださるということ、有り難いが────だからこそ!!」
本当に何を言っているの!?
同時に、足元に居るスキダを見て、私は違和感に気が付いた。
ミナミちゃん(偽物だけど)がさっき大半を食べていたはずだ。なのにどうして……
「そういえばこのスキダはみんな椅子さんと同じ光りかたをしている」
私はずっと椅子さんを見ていたからわかる。
「これは、椅子さんが────?」
集まってくる小さなスキダはやがて人のような形になりおもむろに口から紙を吐き出した。吐き出したというにはあまりにも機械的でコピー機が紙を送るような仕草だったが、その紙には冷たい目をしたコリゴリが映っている。
数人? のスキダが同じようにあちこちでコリゴリの感情、姿を吐き出し始め、それが紙飛行機に変わる。
あちこちで行われるそれに、コリゴリは慌てて捕まえたがるがスキダは自由に
すり抜けていく。
紙飛行機がやがて自発的に外に向かうと、外からもざわついた声が聞こえ始めた。
「……?」
確かにコリゴリは顔が真っ青に、冷静になった。しかし────
「訴えられたら! エリートで居られない!!! 本当にスキダ!!!」
いつの間にかコリゴリの身体は、スキダではない別の姿へと、変形を遂げていた。
「私を────スキニナレ!!!」
「なっ……」
「ナアアアアアンニモ聞かない! ナアアアアアンニモわからないもーん!」
ぐにゃぐにゃとうごく、深緑色の生命体。スキダとは違う……
「私っ、あなたなんて嫌い!」
椅子さんがクラスターを変形させ、棘のようなものに変えると、くるんと回転してコリゴリに標準を合わせ、一斉に突き刺しにかかった。
私も同時に叩く。しかし、スキダのときには多少効いたこれも今のコリゴリには弾かれ、歯が立たなかった。
「ハァー? アラソウ!! ナアアアアアンニモコワクナイ!!
スキダアアアアアアアアアア!!!ヒテイッ、スルナアアアアアアアアアア!!!」
「あなた、ミナミちゃんが好きなんじゃないの?」
「アアアアアアアアアア! アハハハハハ! アハハハハハアハハハハハ!!!」
ぐにゃぐにゃ、と身体を歪ませると、コリゴリはやがて、私に似せた姿に変わる。(骨格は変えられてないが)
「アハハハハハ! スキダ!! ワタシヲ、ヒテイッスルナアアアアアアアアアア!!」
──なんて不気味なんだろう。
「アナタハァ、ワルクナイノヨホォ…………ワタシガァ、チョッド、ジブ
ンヲダモデナイトキニィ、
コーシデ、ツカワセテモラウダケダカラァ!!!」
ダミ声で、彼はスキダのクリスタルを手にする。それが輝きだしたと同時に、
椅子のような姿になっていた。
「ワタシ……マダマダキタイサレテルカラ……
私を────スキニナレ!!!」
「まさか───あなた、電磁波攻撃を──」
コリゴリはニチャア、と笑った。
私は叫んだ。
「告白────! 告白っ、告白────!」
私に抱えられた椅子さんが輝き、攻撃用に素材を変化させる。
「よく考えて! あなたは自分から逃れたいだけ!
自分から逃れたいから、私に優しくしようとするだけよ!
本当には私なんて何とも思ってない、
この場が、あなたを狂わせてるだけなの。
目を覚まして──!
あなたが本当に思っているミナミちゃんを、思い出して!」
椅子を振り下ろす。
コリゴリの身体は人間になって触手は伸ばせないものの脚力はあるらしい。すぐによけようとしたが、反対側に回り込んで叩く。普段ならこれで良かっただろう。
「ワタシ、ナアアアアアンニモワルクナイモン!!!!」
コリゴリはそれを容易く弾いてしまう。
(──告白が、利かない?)
「ナアアアアアンニモワルクナイノヨホォ!! ワタシ、マダマダキタイサレテルカラ!! スゴインダカラ!!」
ぎろ、と鋭い眼力で睨むと雄叫びをあげた。
────ワタシヲ、ヒテイッスルナアアアアアアアアアア!!
「アハハハハ! サイコウ!!! サイコウヨホォ!!!」
このままじゃ、スキダが怪物になってしまう……!
本能的に悟ったけれど、身体が恐怖で震えている。なぜいきなりこうなったかはわからないが、とにかく今は生き残らなくては。
コリゴリがなにかに憑かれたように私に手を伸ばしてくる。
どうしよう、どうしよう、そうだ、まずは、コリゴリから私の意識を引き剥がさないと……
そうすればスライムみたいな力は持たないはずだ。横目でテーブルを確認すると、夕飯の横にいつものティーセットが置いてあった。
私は震える手をどうにか動かして、それを確認した。
ちょうどポットの中に入れたままになっていたティーバッグがあったので、カップに注いだお湯と僅かな水で適当な紅茶を作り頭からかぶる。
「来ないで! やめて、コリゴリ、私に近付かないで」
生ぬるい紅茶が、頭から滴り落ちていく。
けれど今はそんなことに興味はない。
あとで風呂に入ろう。
砂糖を入れてないから、まだべたついてなくて良かったな。
「助けて──!」
叫んだ。
「私が悪いの……この人の気持ちを傷付けたから────! だけど、他人を好きになるなんて意味がわからない」
あまり強い言葉を使うと、やっと静かになったばかりのキムが反応してしまうかもしれない。とりあえず騒ぐ。これはなかなか名案な気がする。
確かに観察は続いている。続いているけれど、遠隔が主だ。盗聴に至っては、声があの人に届くだけだ。それ自体が、テレビに放映され、晒されるほどに異様な、おかしなことだけれど。
「コリゴリが暴れてる!」
これについては事実でしかない。
エリートであるコリゴリが、不祥事を起こしている。これが痕跡になるのはある意味では素晴らしいことだった。
倒す、かどうかすぐ考えることも出来る。でもコリゴリが気持ちを少しでも制御してくれさえすれば────もしかしたら少しくらい────
抱えたままの椅子さんが唸る。そして強い光に包まれて輝きだした。
────ガタッ!!!
────────ガタッ!!!!
────クラスターを発動。
コリゴリは鼻で笑った。
「ふんっ、この近辺はあのお方のクラスターが固めているんだから、他のクラスターが入る隙なんて────」
スキダ……スキダ……?スキダ?
足元に集まってくる小さなスキダが、口々に何かを言い合いながら戸惑い、ざわついているのを見て、コリゴリは急な出来事にあせる。
紅茶……紅茶……紅茶だ……
紅茶だ……
あらぁ! まぁ! たいへんねぇ!
外に居る誰かが、急にこちらを伺うことを言い始めた。
(そとのクラスターが、味方をしない?)
そもそもコリゴリが不法侵入していること自体が知られて都合が良いわけではない。紅茶をかぶったかどうかよりも観察屋にとってもこれは嫌な展開なのだろう。
「エッ? ジブンデッ……!! チガウノホォ!!! ワタシワルクナイノホォ!!! !!
シズカニシズカニシズカニシズカニシズカニシズカニイイイイイイ! シズカニイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
ワルクナイッ、ワタシワタシワルクナイ!!!」
コリゴリは近付かないでと言われたのに、逆に近付いて来る。
すごい剣幕だ。
だけどまだ、自省との間に揺らいでいる
。完全体ではこうはいかない。
きっとまだ人間に戻す方法が……
コリゴリの服のポケットから電話が鳴る。コリゴリはしばらく我を忘れていたが、ぼんやりした意識のままに、端末を手にする。
「── 撤収──しろ?」
コリゴリが目を見開く。
良かった、コリゴリが帰ってくれそうだ。私は胸を撫で下ろし────て居たのだが、コリゴリがわかりました、と通話を切ってもなお、場を動こうとしないことに気が付いた。
「社長は……私にまだ、期待してくださっている……」
「何を言っているの?」
「退けと身を案じてくださるということ、有り難いが────だからこそ!!」
本当に何を言っているの!?
同時に、足元に居るスキダを見て、私は違和感に気が付いた。
ミナミちゃん(偽物だけど)がさっき大半を食べていたはずだ。なのにどうして……
「そういえばこのスキダはみんな椅子さんと同じ光りかたをしている」
私はずっと椅子さんを見ていたからわかる。
「これは、椅子さんが────?」
集まってくる小さなスキダはやがて人のような形になりおもむろに口から紙を吐き出した。吐き出したというにはあまりにも機械的でコピー機が紙を送るような仕草だったが、その紙には冷たい目をしたコリゴリが映っている。
数人? のスキダが同じようにあちこちでコリゴリの感情、姿を吐き出し始め、それが紙飛行機に変わる。
あちこちで行われるそれに、コリゴリは慌てて捕まえたがるがスキダは自由に
すり抜けていく。
紙飛行機がやがて自発的に外に向かうと、外からもざわついた声が聞こえ始めた。
「……?」
確かにコリゴリは顔が真っ青に、冷静になった。しかし────
「訴えられたら! エリートで居られない!!! 本当にスキダ!!!」
いつの間にかコリゴリの身体は、スキダではない別の姿へと、変形を遂げていた。
「私を────スキニナレ!!!」
「なっ……」
「ナアアアアアンニモ聞かない! ナアアアアアンニモわからないもーん!」
ぐにゃぐにゃとうごく、深緑色の生命体。スキダとは違う……
「私っ、あなたなんて嫌い!」
椅子さんがクラスターを変形させ、棘のようなものに変えると、くるんと回転してコリゴリに標準を合わせ、一斉に突き刺しにかかった。
私も同時に叩く。しかし、スキダのときには多少効いたこれも今のコリゴリには弾かれ、歯が立たなかった。
「ハァー? アラソウ!! ナアアアアアンニモコワクナイ!!
スキダアアアアアアアアアア!!!ヒテイッ、スルナアアアアアアアアアア!!!」
「あなた、ミナミちゃんが好きなんじゃないの?」
「アアアアアアアアアア! アハハハハハ! アハハハハハアハハハハハ!!!」
ぐにゃぐにゃ、と身体を歪ませると、コリゴリはやがて、私に似せた姿に変わる。(骨格は変えられてないが)
「アハハハハハ! スキダ!! ワタシヲ、ヒテイッスルナアアアアアアアアアア!!」
──なんて不気味なんだろう。
「アナタハァ、ワルクナイノヨホォ…………ワタシガァ、チョッド、ジブ
ンヲダモデナイトキニィ、
コーシデ、ツカワセテモラウダケダカラァ!!!」
ダミ声で、彼はスキダのクリスタルを手にする。それが輝きだしたと同時に、
椅子のような姿になっていた。
「ワタシ……マダマダキタイサレテルカラ……
私を────スキニナレ!!!」
「まさか───あなた、電磁波攻撃を──」
コリゴリはニチャア、と笑った。
私は叫んだ。
「告白────! 告白っ、告白────!」
私に抱えられた椅子さんが輝き、攻撃用に素材を変化させる。
「よく考えて! あなたは自分から逃れたいだけ!
自分から逃れたいから、私に優しくしようとするだけよ!
本当には私なんて何とも思ってない、
この場が、あなたを狂わせてるだけなの。
目を覚まして──!
あなたが本当に思っているミナミちゃんを、思い出して!」
椅子を振り下ろす。
コリゴリの身体は人間になって触手は伸ばせないものの脚力はあるらしい。すぐによけようとしたが、反対側に回り込んで叩く。普段ならこれで良かっただろう。
「ワタシ、ナアアアアアンニモワルクナイモン!!!!」
コリゴリはそれを容易く弾いてしまう。
(──告白が、利かない?)
「ナアアアアアンニモワルクナイノヨホォ!! ワタシ、マダマダキタイサレテルカラ!! スゴインダカラ!!」
ぎろ、と鋭い眼力で睨むと雄叫びをあげた。
────ワタシヲ、ヒテイッスルナアアアアアアアアアア!!
「アハハハハ! サイコウ!!! サイコウヨホォ!!!」