椅子こん!
「告白っ! 告白っ!
こーくはくっ! こーくはくっ!」
──誰かが楽しそうに手を叩き、無邪気なマウントをとっている。
誰かが、自分を囲んでいる。
「こーくはくっ! こーくはくっ!」
一人、二人、三人、四人。
マウントをとる人数は次第に増えていき、他人を愛せることがいかに他者より優位に立つための卑しい武器であるのかということを周りで見ているだけの周囲にまざまざと見せ付けていた。
「おまえ、スキダを持ってるんだろ?」
「スキダを持ったら、戦いに行かないと」
「うわー。スキダを持ったやつ、この前すごい怪我してたぜ」
教室が嫌な笑いで満たされている。
恋愛をすることを面白がるようなこいつらには、おそらく人の心などない。
けれど──美徳として語られるこの行為は残念なことに、虐めには当たらなかった。
学校がいつしか、道徳教育などを行いいじめはダメだよと教えることが増えてしまったとはいえ、未だに恋愛はだめだとは教えるきまりがない。
いじめと呼べば犯罪になってしまうが、恋をしていることにさえすれば、美しい青春として語られる。絶対にいじめがだめだとしても、恋愛は絶対に許可される。
それが、この44街の人々の陰湿な生活の知恵なのだ。
(嫌だ……スキダなんていらなかったのに)
声を出そうとして、声が出てこない。
(戦争をしなくちゃ、いけないんだよ。
他人を好きになることは、古来からずっと、戦争をする合図なんだから)
このままじゃ、戦争になってしまう。
私は、スキダなんかいらなかったのに。
(誰から愛されなくても、戦争をもたらす『理屈じゃない未知のもの』を抱えるリスクは減らせるというのに───)
動かなきゃ、と思ってみても、身体が動かない。
まぶたが重くて、あちこちが痛い。
まだやれる。まだ、やらなくては。
「こんばんは、実験動物。
よく寝ているみたいだね?」
誰かの──声が、する。
けれど、身体がうまく動かない……
疲れた。いっそこのまま、誰からも好かれない夢の中の世界で、誰も怪物にならない幸せな世界で、眠っていたい。
「よく寝ている……それから、こちらは? おや……? コリゴリ、中々帰らないと思って見れば。こんなところでおやすみなさいか?」
うるさい、な……
「あーあーあー、今までのたくさんの迫害行為、こんなにばらまいて……」
みし、みし、と部屋を踏みしめながら、彼は歩いて行く。
「いけないな。こんなにばらまいているのを誰かに撮られれば、迫害が事実でないと判断される可能性の方が低い。バレてしまうじゃないか」