椅子こん!
ネットワークに繋いでみると、愛至上主義テロリストの話題が盛り上がっていた。
どうやら、恋愛至上主義の団体で、しかもそのわりには、獣姦や対物性愛は認めてないらしい。
(集まってどうするんだろう。乱交パーティーでも開くのかなぁ)
「お姉ちゃん、食べないの?」
女の子に聞かれて私ははっとした。
「ごめん、ちょっと調べものしてた、さっ、食べよー!」
箸を手にし、いただきますをする。
うん、無難なハンバーグの味……なかなかうまく出来たのでは無いだろうか。
「おいしいー!」
咀嚼していると、彼女は食べ終わるところだった。
「冷蔵庫にプリンがあるよ」
私はついでに言う。
ぱっ、と女の子の目が輝いた。
「待ってね」
近くの棚からスプーンを出してきてテーブルに置いて、冷蔵庫からプリンを出してきて、テーブルに置いた。
「……あのね」
女の子が、プリンを両手に抱えたまま項垂れる。食べないのかな?と見ていると、少し間を置いて話し出した。
「わたし、どおして、皆が、恋愛が嫌いなひとを差別するか、わかんない」
つきりと胸が苦しくなる。
「自分は好かれて当たり前だ」
みんな、心のどこかで思っていると思う。
好かれて当たり前だから、相手も好きになる。そうやって、続いてきたんだと思う。
「わたし……恋愛が嫌いだって言ってるママは、輝いてると思ったよ。とっても、頑張ってると思ったよ」
両目からみるみるうちに雫が溢れだして、頬に伝った。
「みんな、人が好きなんじゃないの?
どおして、ママは嫌いなの?」
私にも、答えに困る問いだった。
人が好きな人は、人を嫌える人。
人を守れる人は、人を倒せる人。
プリンに輝かせた目が、みるみるうちに曇ってしまうのが彼女の痛みの大きさを現すような気がする。
「ママは……」
私は恐る恐る聞いた。
「見つからないって、がれきの下を探してる、みたい……でも私はわかるよ。きっとハクナに誘拐された」
「ハクナ?」
彼女はハクナについてそれ以上は語らなかった。口を両手で押さえ、首をぶんぶんと横にふる。
「お姉ちゃんも……気を付けて」
恐る恐る、プリンの容器に手を伸ばすと彼女はラベルを剥がして食べ始めた。
「あ……甘い……」
ハクナは、恋愛至上主義団体と関係があるのだろうか。
・・・・・・・・・・・・・・
ベランダから陽射しが差し込んでいる。
寝ぼけながら目を覚ますと、相変わらずなにやら生物が目の前を横切っているので、二度寝したくなってしまうが、彼はしかたなしに寝室から身体を起こす。
「お弁当はエビフライにしてくださぁい」
朝から目の前の生物――、いやたぶん人物は言った。
しかし人物と、表して良いのかも正直なところわからない。
その人物は、少し前までは人魚だったらしいから。
とてとてと、子どものように乱暴でタドタドシイ歩き方で、部屋中を駆け巡る姿は、確かに陸になれていないようにも思うけれど、だからって、人魚。
「あなたは誰? どうしてこの家にすんでいるのかな?」
一応、これまで何回も質問したことを彼は改めて聞いておく。
「私のおうちをぶっ潰して建てられた人間のお住まいに、私が住んではならないのですか?」
たんたんと、無邪気な声が、返答をすることなく質問してくる。
毎度のことだ。
困ったな。
高校生になって独り暮らしを始めた彼がこの安アパートに引っ越してきて数日。
二階からごそごそ音がしたり、忙しくてほとんどシャワーで済ませるので、使っていないバスタブがやけに濡れていたり、不可解な現状でいつも悩まされていたのだが、まさか、やたらとそういうのに遭遇すると言う母上のように心霊現象ではないとは。
バスタブに浸かっていた、つやつやの、増えるわかめのような、個性的な髪質の彼女。
小柄で140センチくらいの慎重。
見えているのかわからない、曇ったガラスのような目は人間の色素とは違うのか、赤いような青いような、独特の輝きを放っている。
素朴さのある真ん丸の目丸い顔。歯は少しとがっているが、それくらい。
ある日、姿を見せてからというもの、彼の会話に噛み合わせる気もなく、エビフライがいいですを繰り返してついてくる。
「ねー、エビフライがいいです」
「はいはい」
朝から揚げ物なんか作る気力がない、と彼は考え、昨晩買っておいた惣菜コーナーからの逸品を冷蔵庫から出して差し出す。
その生き物は、不思議そうに眺めて 暖かくない、死んでます、と通告してきた。物騒である。
「おまえさ、もっと良いとこに行けよ? 俺なんか母子家庭で実家も正直貧しいし、バイトとかで今はどうにかギリギリ独り暮らしだぜ」
アルミホイルをしいた上にエビフライを二つのせて、トースターに入れながら言う。
ほやーんと不思議そうなリアクションをされた。
それから。
「湖が潰されたのでここから動けませーん」
地縛霊みたいな感じだろうか……
「そうなの? といってもな、俺は建設に関わってないからさ」
「ぼしかてーって、食べ物ですか?」
「両親の離婚や死別」
ぶわっと目に涙をためられた。リアクションが大きい生物だった。
「カワイソウな生き物です」
「そうかぁ? そう言ってくれんの、お前くらいだぜ。世間は冷たいからな」
どうやら、恋愛至上主義の団体で、しかもそのわりには、獣姦や対物性愛は認めてないらしい。
(集まってどうするんだろう。乱交パーティーでも開くのかなぁ)
「お姉ちゃん、食べないの?」
女の子に聞かれて私ははっとした。
「ごめん、ちょっと調べものしてた、さっ、食べよー!」
箸を手にし、いただきますをする。
うん、無難なハンバーグの味……なかなかうまく出来たのでは無いだろうか。
「おいしいー!」
咀嚼していると、彼女は食べ終わるところだった。
「冷蔵庫にプリンがあるよ」
私はついでに言う。
ぱっ、と女の子の目が輝いた。
「待ってね」
近くの棚からスプーンを出してきてテーブルに置いて、冷蔵庫からプリンを出してきて、テーブルに置いた。
「……あのね」
女の子が、プリンを両手に抱えたまま項垂れる。食べないのかな?と見ていると、少し間を置いて話し出した。
「わたし、どおして、皆が、恋愛が嫌いなひとを差別するか、わかんない」
つきりと胸が苦しくなる。
「自分は好かれて当たり前だ」
みんな、心のどこかで思っていると思う。
好かれて当たり前だから、相手も好きになる。そうやって、続いてきたんだと思う。
「わたし……恋愛が嫌いだって言ってるママは、輝いてると思ったよ。とっても、頑張ってると思ったよ」
両目からみるみるうちに雫が溢れだして、頬に伝った。
「みんな、人が好きなんじゃないの?
どおして、ママは嫌いなの?」
私にも、答えに困る問いだった。
人が好きな人は、人を嫌える人。
人を守れる人は、人を倒せる人。
プリンに輝かせた目が、みるみるうちに曇ってしまうのが彼女の痛みの大きさを現すような気がする。
「ママは……」
私は恐る恐る聞いた。
「見つからないって、がれきの下を探してる、みたい……でも私はわかるよ。きっとハクナに誘拐された」
「ハクナ?」
彼女はハクナについてそれ以上は語らなかった。口を両手で押さえ、首をぶんぶんと横にふる。
「お姉ちゃんも……気を付けて」
恐る恐る、プリンの容器に手を伸ばすと彼女はラベルを剥がして食べ始めた。
「あ……甘い……」
ハクナは、恋愛至上主義団体と関係があるのだろうか。
・・・・・・・・・・・・・・
ベランダから陽射しが差し込んでいる。
寝ぼけながら目を覚ますと、相変わらずなにやら生物が目の前を横切っているので、二度寝したくなってしまうが、彼はしかたなしに寝室から身体を起こす。
「お弁当はエビフライにしてくださぁい」
朝から目の前の生物――、いやたぶん人物は言った。
しかし人物と、表して良いのかも正直なところわからない。
その人物は、少し前までは人魚だったらしいから。
とてとてと、子どものように乱暴でタドタドシイ歩き方で、部屋中を駆け巡る姿は、確かに陸になれていないようにも思うけれど、だからって、人魚。
「あなたは誰? どうしてこの家にすんでいるのかな?」
一応、これまで何回も質問したことを彼は改めて聞いておく。
「私のおうちをぶっ潰して建てられた人間のお住まいに、私が住んではならないのですか?」
たんたんと、無邪気な声が、返答をすることなく質問してくる。
毎度のことだ。
困ったな。
高校生になって独り暮らしを始めた彼がこの安アパートに引っ越してきて数日。
二階からごそごそ音がしたり、忙しくてほとんどシャワーで済ませるので、使っていないバスタブがやけに濡れていたり、不可解な現状でいつも悩まされていたのだが、まさか、やたらとそういうのに遭遇すると言う母上のように心霊現象ではないとは。
バスタブに浸かっていた、つやつやの、増えるわかめのような、個性的な髪質の彼女。
小柄で140センチくらいの慎重。
見えているのかわからない、曇ったガラスのような目は人間の色素とは違うのか、赤いような青いような、独特の輝きを放っている。
素朴さのある真ん丸の目丸い顔。歯は少しとがっているが、それくらい。
ある日、姿を見せてからというもの、彼の会話に噛み合わせる気もなく、エビフライがいいですを繰り返してついてくる。
「ねー、エビフライがいいです」
「はいはい」
朝から揚げ物なんか作る気力がない、と彼は考え、昨晩買っておいた惣菜コーナーからの逸品を冷蔵庫から出して差し出す。
その生き物は、不思議そうに眺めて 暖かくない、死んでます、と通告してきた。物騒である。
「おまえさ、もっと良いとこに行けよ? 俺なんか母子家庭で実家も正直貧しいし、バイトとかで今はどうにかギリギリ独り暮らしだぜ」
アルミホイルをしいた上にエビフライを二つのせて、トースターに入れながら言う。
ほやーんと不思議そうなリアクションをされた。
それから。
「湖が潰されたのでここから動けませーん」
地縛霊みたいな感じだろうか……
「そうなの? といってもな、俺は建設に関わってないからさ」
「ぼしかてーって、食べ物ですか?」
「両親の離婚や死別」
ぶわっと目に涙をためられた。リアクションが大きい生物だった。
「カワイソウな生き物です」
「そうかぁ? そう言ってくれんの、お前くらいだぜ。世間は冷たいからな」