椅子こん!
神様編


むかしむかし

昔話
 むかしむかし、あるところにキシモサマがおりました。

 もとをただせば志半ばで不幸な死を遂げた女でした。
女はあらゆるものを壊されあらゆるものから否定されたので、
■■■■■■■■■■■■■
■■■■■って、■■■■■■■■■■■しまいました。
しかしながら■■■■■■■■■■■■■■■■■■ったため、■■■■■■■■■■が、■■■■■■■■■ったのです。

 それをキシモサマに魅入られ、
あらゆるところで他人の子を食らったので、呼称としてキシモサマと呼ば
れておりました。
村人に怒りを鎮めることは出来ず、
何をしたところですべて■■■■■■■■■■■■■■■■■■しました。
なぜなら彼女は■■■■■■■■■■■■■■■■■であり、それこそ、村人が元気に幸せそうに結託していたためです。


 誰にも彼女を救うことが出来ませんでした。
彼女が他人の子を食らうことを止められませんでした。それはそれは長い年月。
彼女は泣き続けました。ずっと嘆いていました。彼女は悲しい声で泣いていました。
彼女の泣き声は子どもにはよく響き、
聞いた子どもたちは浚われてしまいます。
 村人は子どもが欲しいのだと考えて、毎年、子どもを山に捧げました。

しかし、彼女は■■■■■■■■■■■だったため、■■■■■■■■■■■なのですから。■■■■■■■■■■を、■■■■し、数年だけ怒りを鎮めること
にして、殺しました。



むかしむかし、
誰からも愛されず、誰からも認められない少女がおりました。

「泣いてるの? 何が、悲しいの?」

山に捨てられた彼女は、キシモサマに会いました。
キシモサマは泣くだけでしたが、すぐには彼女を食らいませんでした。
なぜなら、怒りを鎮めることに躍起になる村人と彼女は違い、なぜ悲しいのかを聞かれたのは何千年振りだったためです。

──そう。なんだ。私もね、誰もいないの。周りに、誰もいないのよ。

 彼女はあまりに淡々と自分のことを話しました。
怖がることもなく、臆することもなく。
彼女にはわかりました。
痛みが、苦しみが。自分のことのように。
キシモサマはずっと存在するだけでとても苦しんでいる。


──私にも、好きなものも、好かれることも、
なにも無いのよ。

 少女には好きなものも、好かれることも、幸せそうにすることもなにもありません。
村の貴重な男手として長男が優遇されるので彼女には期待されることもないので、
生れた意味がありません。
かといってこれからやりたいこともなく、
家は貧しく、ただ孤りで消えていくのみでした。


──なにかを好きな人が、妬ましいね。
なにかを期待し続けられる人は、憎いね。
生きてても、出来ないなら、どうして
私もあなたも、生れたのかな。
とても不公平だわ。
キシモサマは、ずっと頑張ってて、すごいね。


キシモサマは彼女に聞きました。

お前も捨てられた。
自分とは違うのだ。
お前にはまだ未来があり、幸せがあるかもしれない。かもしれない考えることが出来るだけで自分とは違う。妬ましい。

──うちで、期待されるのは長男だけよ。
長男以外は力を持つだけでも許されない。
私は山に来るまでに勉強をとっても頑張ったのよ。 
 けれど、父様が女が字を学ぶな、家事や裁縫をしろって言ってこうやって死ぬの。
やっぱり私はそれ以外に価値がなかった。
だけど、やっと良いことがあった。

 キシモサマは少女の話を珍しく、じっと聞きました。彼女がまだ村の女だった頃
もまた、彼女に価値はなかったのです。


──他人の子を食べても、
ずっと、また、なにかを好きな人が、結託してあなたを責める。
そのたびにあなたは苦しむわ。

 少女はキシモサマだけが、味方であると理解しました。
なにかを好きな人は、なにかを好きにすらなれなかった人をまるで人ですらないような目で見てしまう。

──私も、長男になれず、勉強も許されない、好きなものも、好きなこともなにもかも奪われた。きっと更に頑張っても痛い思いをするかもしれない。
私の持ち物も全部長男に渡るのでしょうね。



「あなたは、私を必要としてくれた」
少女は幸せそうに、そしてその幸せがキシモサマの為であると言いました。

──あなたは他人を幸せに出来る人。



キシモサマは、彼女の好きなものと引き換えに、彼女を食べずにずっと山で暮らしま
す。


 やがてキシモサマは愛情深い優しい神様として、村人たちに崇められました。











「まぁあ……44街にまだこんな古い本があったなんてね」

「昔話です。フェミニストの肩を持つわけではありませんが、この時代、女は価値が低く、長男は働き手として優遇されるも、
女は家事だけをさせ、恋愛というのも家庭の繁栄の道具でしかなく子どもが生まれても売りに出されて居ました。
──好きなものと引き換えに……つまり、キシモサマに与えられる幸せ以外と引き換えに。どのみち誰からも認められない、価値がない為に苦ではなかったのでしょう。幸せになって居ますし彼女は幸せになったとも言えますね」

「……スキダの、怪物化」

好きなものも、幸せになることもなにもかもが蹂躙されつくしているとしたら──

「──総合化学会には、
人間の幸福から人間を幸福にする、魔のものは恋愛による幸せで遠ざけられるとしか伝えられていません。
これも二人が出会ったことによる幸福を書いていたともとれます」

「そうとも、解釈出来ますが……」

眼鏡が苦々しい顔をする。
会長はあわてて笑顔に戻ると釘をさした。

「とにかく、このことはまだ外部には内密に!」

< 51 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop