椅子こん!
観察されるのが日常化し過ぎてる件!









「観察さんだ……」

 私は、お洒落な台所の窓からそのヘリコプターを見上げた。ドローって、いうんだっけ。食べたお皿を洗い、プリンの容器を片付けて居ると、外から家の近くを飛ぶそれを見つけたのだ。
「観察さん、やっぱり恋愛至上主義者に雇われてるって、本当なのかな」
ポツリと呟いてみても、答えがどこかから聞ける訳じゃない。

 観察さんというのは、いつからか空を飛んでいる不思議な存在だった。時期同じくして芸能人のスキャンダルや、宗教団体のテロがメディアに劇的に増えた。
「あれ、こわい……」
 女の子は頭を両腕で庇うように覆って踞った。

(あの家の爆破も、観察さんのリークなのかしら)

シンクにいる私の横にやってきた女の子の手をきゅっと握りながら、私は思考する。皿を拭いて、棚のいつもの場所に並べて…… なるべく不安を見せないように気を付けながら窓をもう一回見る。

 台風が近付いているだけあって、外は悪天候と言って差し支えなかった。
先ほどまでは曇るだけだったけど、夜に近付くにつれ、風が強くなってきている。


悪天候時のフライト……

こんな日に、わざわざ好んで飛ぶだろうか。

全くもう!!
困っちゃうよね!!

そのとき、外で、ズドーン!!なのかウドンなのかわからないなりに大きな音が響き、地面が揺れた。

「雷!?」
…………あれ。
そういえば、観察さんのプロペラの音も同時に止んでしまった。


私は慌てて台所を飛び出した。


そして恋に落ちた。


椅子が、椅子が、草原に佇んでいる…………
背凭れのあるちょっと古い感じの椅子。
それが、雨風に晒されながらも微動だにせずにじっと、存在していた。後ろには倒れた男性と無惨に羽が大破したヘリコプターがあったので、もちろんずっと見とれているわけにはいかないけれど……それでもやはりときめかずには居られなかった。

からだが硬直する。

ピシャーンと、雷が私の中に走った。

なに、この、木の質感…………!!

なに、このたたずまい…………!

ドキドキがおさまらない。


頭に回想が走った。

ネグレクトで強くなると言われて育った私。
放置で強くなる、と親は真面目に信じていた。
──確かに強くはなったと思う。

けれど、ネグレクトはネグレクトだ。強いなんて、間違いだ。……本当に強い人間は、周りに頼ることが出来るのだろうから。
放置されてきた人間は、放置されない状況を受け入れられなくて、最終的に、誰の感情も本当には理解出来ない。


 放置されてきた私は物や他人以外と過ごす時間が他人よりも長かった。密接な関係性を築けたのは、物や人間ではない相手。
このまま修正不可能!!!

やっぱり、運命って、存在しちゃうのでは?
ウゥッヒョオアアァアアアァ!

心が、いけよ、いけよ、と急かしている。私は両頬に手を当てた。
顔が火照る……どうしよう。

椅子だよ?

椅子。

木製の家具。

椅子。

家具。

椅子、椅子が、椅子が私をみてる……!!!
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