青の先で、きみを待つ。



それから教室に向かって私は自分の席についた。教壇の前では沙織グループが騒いでいて、その中に美保もいる。

あの日以来、美保とは喋ってない。

周りからはただの喧嘩だと思われているけれど、美保から離れていった以上私から声をかけることはできない。

ひとりぼっちの教室には居づらいので、最近は授業が終わると真っ先に廊下へと出ることが日課になっていた。窓の外からちょうど裏庭が見えたので、私はそこへと出向く。

花壇の前で腰を下ろすと、この前植えた種はまだ芽を出していなかった。

こういうのって、どれくらいで育つものなんだろうか。ぼんやりとそんなことを考えていると、背後から足音が聞こえてきた。

「あ、紺野さん」

振り向くと、そこには如雨露を手に持っている橋本さんの姿があった。

……橋本まりえ。

私の親友であり、私のことを地獄に突き落とした人。

でも、今の橋本さんには、現実でのまりえの派手さはない。黒髪で化粧もしてなくて、話す口調も穏やかでゆっくりで、私には到底同じ人物には思えなかった。

「えっと……私の顔になにかついてる?」

じっと見すぎたせいか、橋本さんは困っていた。

「穴……」

「え?」

「その如雨露、穴があいてない?」

彼女の後ろには、如雨露から漏れていた水の跡がくっきりと残っている。そのせいもあって、せっかく運んできた水は半分くらいの量になっていた。

「わわ、本当だ……! 全然気づかなかったよ」

慌てている橋本さんが、少し可愛い。

仲がよかった頃は、まりえもこんなふうにおっちょこちょいの一面を見せてくれることもあった。でも、徐々に変わってしまった。

まりえ自身がそうなることを望んでいたのか。それとも周りがそうさせてしまったのか。どこかで修正してあげることはできなかったのかと、今でもそんなことばかりを考えてしまう。


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