青の先で、きみを待つ。






「あかり、そこのボウル取って」

「これ? ってかオーブンの予熱って何度だっけ?」

週末、家でゴロゴロしていた私に突然お母さんが「クッキーでも焼く?」と誘ってきた。普段、料理なんてしない私にお菓子作りは難易度が高いけれど、作り始めると意外に簡単で今は生地を形成中だ。

「型抜きもあるわよ?」

「でも好きな形にしたほうが面白くない?」

「じゃ、お母さんはクマを作ろうかしら」

お母さんはずっと楽しそうだった。現実世界でお母さんとこうしてなにかを作ったことなんてなかったし、一緒に台所に立つことが密かな夢でもあった。

……これも、私が願ったから叶えられていることなのかな。

「あかりは好きな人いないの?」

お母さんは前触れもなく、そんなことを聞いてきた。

「え、い、いないよ!」

わかりやすく動揺した私は、猫の形にしていた生地をぐにゃりと握り潰す。

「そうなの? もしいたらクッキーでもあげたらって思ったのよ。お母さんもね、学生時代はよく好きな男の子にお菓子を作ってあげてたんださら」

そんな話を聞いたのは、もちろん初めてだった。

現実のお母さんがそうだったかはわからないけれど、そこの記憶を変えても私には関係ないことだから、おそらく本当のことだと思う。


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