青の先で、きみを待つ。
そういえば昔、物置小屋でお菓子の本やら料理の切り抜きを収めたファイルを見つけたことがあった。
私が知っているお母さんは料理をしない人だったけれど、もしかしたら苦手なりに挑戦していた頃があったのかなと考える。
「ねえ、お母さんはなんでお父さんと結婚したの?」
現実のお母さんが変わったのは、おそらく結婚してからだ。
大人の事情なんて知らないけれど、お母さんはいつも家の中でため息ばかりついていた。だから私はあまり結婚にいいイメージはない。
「それはお互いに好きだったからよ」
「でも喧嘩したり嫌になったりすることもあるでしょ。……結婚しても好きじゃなくなったらもう終わりじゃん」
現実のお母さんの薬指に指輪ははめられていない。
こんなふうに穏やかな時間を過ごすことも、お父さんの名前を口に出すことさえ許してくれなかった。そのぐらい余裕がなくて追い詰められていたんだと今ならわかる。
「……そうね。たとえ家族になっても、すれ違ったり修復が困難になることはあるのかもね」
お母さんはやっと完成させた三匹のクマをトレーに並べたあと「でも……」と続けた。
「私はお父さんと結婚したからこそ、子供を授かってあかりに会えた。だからこれからなにかがあったとしても、自分が選んできた選択に後悔はしないわ」
――『もう、本当に、結婚も子供も失敗だったわ』
現実でお母さんが言っていた言葉が頭をよぎる。どちらが本音なのか。それはお母さんにしかわからないことだ。
でも大人は完璧じゃない。親になったって上手くいかないことはあるし、感情のままに思っていないことを口走ってしまうこともあるだろう。
私が思い描いていた理想とはかけ離れた結果になってしまったけど、私も生まれてこなきゃよかったとは思いたくない。
できれば、生まれてきてよかったと。
自分自身を否定することは、もうやめようと思った。