青の先で、きみを待つ。
◇
自分にこんな勇気があるとは思わなかった。
おそらく、ここが現実世界ではないという保険があったことが大きいと思う。
「なあ、さっきからなんなの? すげえ目障りなんだけど」
次の日の学校。すでに朝のホームルームが始まっているというのに、私は蒼井と非常階段の踊り場にいた。決して待ち合わせをしたわけではない。人気がない場所を探してたどり着いたら、先に彼がここにいたのだ。
「冷静に考えたら、私ものすごいことをしちゃった気がするよ」
「へえ、そう」
蒼井には、ぽつりぽつりと昨日の放課後の出来事を話した。
あの時、私は美保の手を振り払って橋本さんの元へと駆け寄った。
無我夢中だったので彼女の表情まで見る余裕はなかったけれど、橋本さんとの話が一段落して振り向くと、そこにもう美保の姿はなかった。
美保があのあと、沙織たちと合流して遊びに行ったのかどうかはわからない。だって私は家に帰ったあとも連絡はしてないし、今日だってまだ教室に入っていないので、顔を合わせていない。
「お前って中途半端だよな」
蒼井は壁に持たれながら、スマホをいじっている。
「昨日勇気を出したって、今日はそのせいでなにかを言われるかもしれないって、怖がってんだろ?」
彼には心の中を覗く力でもあるんだろうか。ぐうの音も出ないほど当たっている。
たしかに昨日の私には勇気があった。ここが現実ではないのなら、どうにでもなれっていう開き直りもあったかもしれない。
でも、そんなのは一瞬だけ。
夜が明けて朝になり、学校が始まってしまえば、そこが現実ではなくても私の日常なわけで。
美保が沙織に昨日のことを報告したんじゃないかとか、それによって私への風当たりが強くなり、教室に入った途端に誰からも挨拶をされない光景が広がっているんじゃないかとか、そんなことを嫌というほど考えている。