青の先で、きみを待つ。
私に偉そうなことは言えない。
今日だって橋本さんを助けたことで自分がいじめられたらどうしようってそればかりを考えていた。
橋本さんはいじめられても遅刻なんかせずに学校に来てるのに、私は非常階段へと逃げてしまうほどの臆病者だ。
学校なんてひとりになったら地獄だと蒼井に言ったけれど、その地獄の中に橋本さんはずっといる。そう考えたら……やっぱりこのまま見過ごしてはいけないと思う。
「美保だって橋本さんのことを心から笑ったりしてるわけじゃないんでしょ?」
「みんなそうだよ。ただ雰囲気に合わせてるだけ」
「だったら、それをやめようよ」
「なんで? 沙織の機嫌を損ねずに笑ってればいいじゃん。簡単なことだよ」
「み、美保だってもし自分がされたら笑えないでしょ?」
私は橋本さんのことを見ていると、辛くて苦しくなる。最近、とくにそれを強く感じている。
「私はされないよ。そうならないように努力してるもん」
美保は開き直ったように、なめらかに唇を動かし続けた。
「沙織って怖い先輩からも可愛がられてるし誰が見たって調子に乗ってんじゃん? でも笑って友達やってればなんてことないし」
「………」
「うちのクラスって、そこそこ目立つ生徒が集まってるでしょ? そんな中で橋本さんは見るからに浮いてるし、冗談も通じないし、はっきり言っていじめられやすいタイプなんだよ」
いじめは本当に些細なことから始まる。
太っているとか、痩せすぎているとか。
声が低いとか、声が高すぎるとか。
顔が可愛くないとか、逆に可愛すぎるとか。
メガネをかけているだけで。アニメが好きなだけで。アイドルを追いかけてるだけで。
いじめの入り口なんて、なんでもいいのだ。