青の先で、きみを待つ。
◇
それから数日が経った朝。目が覚めると、なぜか体は汗でびっしょりだった。
夢にうなされていた記憶はあるけれど、内容はほとんど覚えていない。スマホの時計を確認すると、まだ五時半だったので、ひとまずシャワーを浴びることにした。
美保とはあれから普通だし、今も仲良しだ。沙織は相変わらず女王様気分でやりたい放題だけれど、私に害が及ぶことはなく、暇な時は遊ぼうよと誘われている。
学校も友達も、なにもかもが順調で、私を取り巻いている環境は平和そのもの。なのに、私の心は今もどんよりと灰色がかっている。
このモヤモヤとした感覚を無くしたいのに、頭の中で聞こえてきた声が消えずに、ずっと耳の奥に残っているから最悪だ。
今とは違う容姿の美保に、うざいと言われた。
私たちがどういう関係で、なぜそんな展開になったのか。そこまでの経緯はまだ思い出せないけれど、現実世界の私はひどく取り乱していたし、傷ついていた。
重たい気分が拭えないまま、シャワーを終えてリビングへと向かう。気づけば、あまりのんびりしていられない時間になっていたので、急いで学校に向かう準備を始めた。
朝ごはんなんて適当でもいいと、食卓にあった食パンをかじっていると、ドタバタと騒がしい音が聞こえてきた。
「ごめん、あかり。朝寝坊しちゃって……!」
慌てて飛び起きてきたのか、お母さんの髪がひどく乱れていた。
「そんな焼いてない食パンなんて食べなくていいから。今から急いで朝ごはん作るからね!」
自分のことはそっちのけで、お母さんは台所へと立つ。フライパンの上に卵を落とすと、嗅ぎ慣れた朝食の香りが漂い始めた。
「あかりも起こしにきてくれたら良かったのに。今度からはそうしてね?」
……そうだ。私はなにをぼんやりしてたんだろうか。
お母さんがいないことや朝ごはんが用意されていないこと。普通はすぐ気づくはずなのに、今はまったく違和感を持たなかった。
お母さんが朝寝坊することなんて滅多にないし、起きたら必ず「おはよう」と言ってくれて、座ればすぐに朝ごはんが出てくるのが当たり前の光景だったはずなのに……。
この冷たい食パンの味を口が覚えている気がした。