青の先で、きみを待つ。
◇
午前授業は移動教室だった。なんでも視聴覚室で自然環境についてのDVDを見るらしい。
「私、寝ちゃいそうだよ」
大きなスクリーンで見るため、部屋のカーテンは閉められていた。薄暗い空間の中で、私と美保は隣同士に座っている。
「多分、寝てても大丈夫じゃない?」
「じゃあ、先生にバレそうになったら起こしてくれる?」
「うん、いいよ」
机に顔を伏せている美保を横目に、私はやっぱり〝あのこと〟を気にしていた。
『うざい、キモい』
悪意しかない言葉は、私の胸にナイフのように突き刺さった。
あの声や映像がなんなのか。あれは本当に私が失っている記憶の一部なのか、それは現時点で確かめる術はない。けれど、なんらかの意味があって、おそらくそれは現実世界にいた私と繋がっている可能性が高い。
「ねえ、私もここに座っていい?」
上映が始まって十分。授業に遅れてやってきた沙織が私の左隣に座ってきた。
「え、ああ、うん」
断る理由がないので、私は頷く。DVDの内容は絶滅危惧種のアオウミガメとかイリオモテヤマネコなどが紹介されていた。
私はこういうのはわりと好きなほうだけど、周りは退屈そうで、美保も完全に寝落ちしていた。
「暇だから話そうよ」
沙織に腕をツンとされる。考えてみれば、沙織と話す時にはいつも誰かしらいて、大勢の中のひとりとして私は溶け込んでいた。だからこうして、ふたりきりで話すのは初めてかもしれない。